誘惑じょうずな先輩。
「香田先輩来るかな〜って思って、ベッドの裏にずっと隠れてました!」
「怖い怖い」
あ、本音が漏れた。
日向くん、とたんに悲しげな顔したけど許してほしい。
……ベッドの裏って、ずっと、って。
だってもし、入ってきたのがわたしじゃなくて本当の病人だったらどうするの?
ベッドの裏から人が出てきたら……、フツーに恐怖だもん。
それに、わたしが万里先輩の連絡先眺めてるところ、ばっちり見られた。
一応この子は万里先輩の従兄弟で……、うん、だいぶ恥ずかしい。
先輩が好きなのは事実だけど……、ほかの人に惚気るのはめったにないから、よけいに。
「俺の入る隙、なさそうですね……」
ずっと黙っているわたしに、日向くんはショボンと肩を落とす。
まるで捨てられた子犬みたいで……、あるのかわからない母性本能がくすぐられる。
……後輩って、こんな感じなんだ。
わたしに甘い万里先輩の気持ちが、いま、ちょっとわかった気がする。