誘惑じょうずな先輩。
「それに香田さん、慣れてます、みたいな顔してるから、」
万里先輩にも、いつか言われた言葉。
でも、なんでか、万里先輩は良かったのに。
それは、先輩に名前のわからない特別な感情を持っているせいで。
夏川くんの言い方は、どこか哀れんでるような、バカにしているような、そんな気がして。
……わたし、先輩の遊び相手じゃ、たぶんないもん。
先輩だって、ちがうって、言ってたもん……。
「そ、んなんじゃないから……っ!!」
自分でもびっくりするくらい、思ったよりも大きい声が出て、
そのあと、バンッと机を叩いたあと、教室を飛び出した。
__ 空になったとなりの席を見つめ、夏川くんは呟いていたらしい。
「……なんだ、気、強ぇの」
ククって笑って、妖艶な瞳を光らせていたって。
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怒って教室を出たのはいいものの……。
いまは休み時間だし、そのうち教室に戻らなければいけないわけで。
「はぁ……、」
頭にのぼっていた血は冷めはじめ、もはや、夏川くんに申し訳ないことした、と反省中。
たいして話したことない女子との世間話に、あんなに大きい声でキレられたら面倒くさいやつだと思うよね……。