誘惑じょうずな先輩。
はあ、と2度目のため息をつき、中庭の段差のところに腰をおろした。
そのまま縮こまって、ぎゅう、と身体を小さくする。
考えるのは、さっきまで話していた夏川くんではなくて、万里先輩。
なんだかんだ、口下手で面倒なわたしに優しくて、構ってくれる先輩。
こんなに頭に住みついてくるなんて、ほんと敵わない人。
「ば、んりせんぱ、い」
ぼそ、と名前を呟いてみる。
「はや、せんぱい」
言ったことない、したの名前。
どうしてだろう。
名前だけで、こんなにもきゅっと胸が締まるのは。
こんなにも話したいって思うのは。