誘惑じょうずな先輩。


「話したい、なぁ、」




きっとわたしにしか聞こえない声。

先輩になんか、届かない声。



___ なのに。





「……ねえ、それはかわいすぎ、」




ふわっと、シトラスの匂いが鼻腔をくすぐって。


背中に体温を感じるのは……、
紛れもない、万里先輩。



…………え。




うそ、待って、ってフリーズしちゃう。


いまの……、聞かれてた、よね。





「わぁっ、あの、ちょ、離れてください……!!」




離れて、そのままわたしは教室に逃げこみたい!


さっき飛び出した教室が、急に恋しくなってきた。



ん……?

わたし、教室に恋してるのかな?




先輩が抱きついてきてるせいで、正常な脳みその機能が凍ってしまっている。




どうでもいいことを考えながら先輩を引き離そうとするけれど、ひっつき虫みたいに離れてくれない。

















< 61 / 303 >

この作品をシェア

pagetop