誘惑じょうずな先輩。
「話したい、なぁ、」
きっとわたしにしか聞こえない声。
先輩になんか、届かない声。
___ なのに。
「……ねえ、それはかわいすぎ、」
ふわっと、シトラスの匂いが鼻腔をくすぐって。
背中に体温を感じるのは……、
紛れもない、万里先輩。
…………え。
うそ、待って、ってフリーズしちゃう。
いまの……、聞かれてた、よね。
「わぁっ、あの、ちょ、離れてください……!!」
離れて、そのままわたしは教室に逃げこみたい!
さっき飛び出した教室が、急に恋しくなってきた。
ん……?
わたし、教室に恋してるのかな?
先輩が抱きついてきてるせいで、正常な脳みその機能が凍ってしまっている。
どうでもいいことを考えながら先輩を引き離そうとするけれど、ひっつき虫みたいに離れてくれない。