誘惑じょうずな先輩。
「先輩って、不思議な人ですね」
なにを考えてるのかなんてわからなさすぎて。
意味不明の擬人化、万里先輩。
甘くなったり、離れたり、触れてきたり。
その行動に、どんな意味が含まれてるのか。
わたしにはわかるはずがない。
「そーかな」
そうだよ。
もういちど肯定してしまったら、怒ってるように聞こえちゃいそうだから、ガマンして口を閉ざした。
……と同時に、3年生の先輩とは階がちがうから別れることになった。
「またね、ゆんちゃん」
先輩はいっしょにいるときはべったりするくせに、離れるときはあっさりだ。
びっくりするくらいなにもなく、……いや、なにかを期待してるわけではないけれど、ひらひら〜と薄く手を振ってひとつ上の階へ上っていく先輩。
その姿を見て、こんなに名残惜しいと思ってるのは自分だけなんだとまた実感して、ふう、とため息をついたあと、静かな廊下を慌てて駆けていった。