誘惑じょうずな先輩。
だって夏川くんは、まっとうな高校生のくせに
ピアスが右耳に3つ。
わたしなんかが踏み入れられない世界にいるんだって、そんなのウワサで聞かなくともわかる話。
「バンリ先輩になぐさめてもらったんだ?」
ククってイジワルな微笑みで、わたしを見る。
そこには嫌味プラスに、からかいが滲んでいるのに、またムカムカが再発する。
もう……、この人はわたしをばかにして楽しいんだろうか。
でも、どこか夏川くんの瞳は優しくて、さきほどの怒りはなく、しかたなく頬を膨らませるだけで済ました。
「たまたま、だし……」
そうだよ。
先輩になぐさめてもらったわけではないけれど、会っていたのは事実だし。
だけれど、わたしが呼び出したわけではない。
ほんとにたまたま、会っただけ。