幼馴染からの抜け出し方
「そうとう強く叩かれたんだな。痛そう」
私の腫れた頬を撫でてくれていた由貴ちゃんの指がそっと離れていく。
「おばさんには連絡した?」
「もちろん。由貴ちゃんのとこに泊まるってメールした」
「おばさんはなんて?」
「ごゆっくり~って」
私がそう答えると、由貴ちゃんはなにやら難しい表情を浮かべてしまった。
「……めぐのお母さんって俺のことなんだと思っているんだろうってたまに思う」
「どういうこと?」
「俺のこと男として見てないのかな」
そんな由貴ちゃんの呟きに、私は大きな声で言葉を返す。
「違う違う!うちのお母さん、由貴ちゃんのことすごーく信頼してるんだよ。まるで自分の息子みたいにね」
「ふーん」
息子かぁ、とこぼす由貴ちゃんはなんだか納得のいっていないような表情だ。
「それって嬉しいような複雑なような」
「複雑?」
「めぐのお母さんが俺のことを息子だと思っているなら、もしかしてめぐも俺のこと兄みたいとか思っていたりする?」
「そんな、兄みたいなんて思ってないよ」
私は、とっさに首を横に振る。それから、笑いながら答えた。
「由貴ちゃんのことは弟みたいだと思ってる」
ちょっとした冗談のつもりで返したけれど、由貴ちゃんの表情が固まってしまった。
あれ? もしかして、弟じゃなくて兄のほうがよかったのかな。
「……弟でも兄でもどっちでもいいんだけどさ」
しばらくしてから由貴ちゃんがぽつりと呟いた。