幼馴染からの抜け出し方
「もうっ! めぐみの鈍感。はっきり言わないとわからないのか。だから、男女が同じ部屋で夜を過ごしたら、なんていうかムラムラとくるでしょ」
「ムラムラ……」
言いにくそうにしているゆかりを見ていたら、ああそういうことか、とようやく彼女の言いたいことが理解できた。
「なるわけないよ。だって幼馴染なんだから、今さらそういうムードになんてならないって」
思わず、笑い飛ばしてしまった。
問題ってそれ? だとしたら、そんなのは少しも問題じゃない。
「あのさ、めぐみはそうかもしれないけど、由貴ちゃんはどうなんだろうね。めぐみは意識してないみたいだけど、そういうのって男の人の方がきっと意識すると思うよ。由貴ちゃんだって我慢してるんじゃないかな」
「我慢……?」
そういえば、似たようなセリフを由貴ちゃんからも聞いたような気がする。
そんなことを思い出しながら、生姜焼きのお肉を口の中へ放り込んだ。
*
その日、仕事が終わったのは午後八時だった。
職員用の出口を出ると、ひんやりとした頬が風に当たる。
十月下旬の今は、昼間は上着一枚でも過ごせるけれど、夜になるとさすがに肌寒い。
ワンピースの上に羽織っているトレンチコートの襟元をかき合わせて歩いていると、後ろから「めぐ」と名前を呼ばれた。