幼馴染からの抜け出し方
私のことをそう呼ぶのはひとりだけ。
きょろきょろと辺りを見回してその人物を探すと、周りの人たちよりも頭ひとつ分飛び出た長身が右手を上げてぶんぶんと大きく振っている。
「由貴ちゃん」
駆け寄っていくと、見るからに上質なスーツを着こなす由貴ちゃんが私を見下ろす。
「めぐ、髪切ったね」
「うん。気分転換だよ」
「そっか」
似合ってるよ、と微笑みながら、由貴ちゃんの手が私の髪にそっと触れる。私もまたそんな由貴ちゃんを見つめ返した。
普段から私服姿の由貴ちゃんを見慣れているせいか、たまに見るスーツ姿がとても新鮮に感じる。
シャドウストライプの入ったネイビーのスーツに、グレーのネクタイはとてもきれいにまとまっていて、私服のときよりも大人っぽく見えた。
思わずじっと見つめていると、由貴ちゃんが「ん?」と首を傾げる。
「俺になにか付いてる?」
「ううん。由貴ちゃんは今日もかっこいいなと思って見とれてた」
「そりゃどうも。それよりこれからご飯どう?」
「うん。いいけど突然だね」
お互いの仕事終わりにこうしてご飯に出掛けるのは久しぶりかもしれない。