幼馴染からの抜け出し方
「――めぐ! 聞いてる?」
「えっ。あ、ごめん」
すれ違う女性たちの視線を気にしていたら、すぐ隣を歩く由貴ちゃんに声を掛けられていたことに気付かなかった。
「どうしたの、大丈夫?」
そんな私を由貴ちゃんが心配そうに見つめてくるので「大丈夫、大丈夫」と答えながらアハハと笑ってごまかした。
「めぐはなにか食べたいものある?」
「うーん、なんだろう。由貴ちゃんは?」
「そうだな。なにがいいかな」
考えていると、しばらくして由貴ちゃんが「あ」と声を上げる。
「焼き鳥はどう?」
「焼き鳥?」
「この前、会社の先輩に連れて行ってもらったんだけど美味しかったから。その店どうかなと思って」
「いいねぇ、焼き鳥。久し振りかも」
「じゃあ決定」
そうして由貴ちゃんが連れてきてくれた焼き鳥屋は、雑居ビルの一階に店舗を構えていた。新しくできたばかりなのか入口には開店祝いの花がいくつも飾られている。
引き戸を開けて中へ入ると、背の高い由貴ちゃんには入口が少し低そうだった。少し腰を折って入るものの、のれんが顔にかかって、由貴ちゃんがそれを邪魔そうに軽く手で払う。背が高いというのもこういうときは不便なのかもしれない。