幼馴染からの抜け出し方
4.



 ***


「痛っ……」

 左手の人差し指にピリッとした痛みを感じた。うっすらと血がにじんでいる。それをティッシュで軽く拭き取ってから、絆創膏を貼った。

 子供の頃から手慣れている裁縫をしていたはずなのに、考え事をしていたせいか針で指を刺してしまった。

 ぽかぽかと暖かな陽が差し込む金曜日の午後。今日は、朝から自分の部屋にこもって趣味の裁縫に没頭している。

 手を動かしていれば余計なことを考えずにすむと思ったけれど、そんなことはなかった。手はチクチクと針を動かしているものの、頭では別のことを考えてしまう。

 由貴ちゃんが出張へ行ってから今日で三日。

 駅での別れ際に言われた『このまま幼馴染でいるつもりないから』の言葉が気になってしまう。

 もともと何事も深く考えずに忘れていく性格だけど、由貴ちゃんのあの言葉だけはなぜかずっと頭から離れていかない。

 私はずっと由貴ちゃんのことを大切な幼馴染だと思っているし、それはこれから先も変わらない。それなのに、由貴ちゃんはそうじゃないのだろうか。由貴ちゃんはもう私とは幼馴染でいたくないのかな。

 ううん、そんなはずはない。

 そう思いたいけど、じゃあどうして幼馴染でいるつもりはないなんて言ったのだろう。

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