幼馴染からの抜け出し方
「今からホットココア作るから、めぐは座って待っていて」
ソファに腰掛けている幼馴染にそう声を掛けると、「由貴ちゃんのココア好きー」と、赤く腫れた頬で彼女が微笑む。
ココアなんて誰が作っても同じだと思うけど。
俺は、狭いキッチンに立つと、小さな鍋を取り出した。そこへ市販のココアの粉末を入れて弱火で少し煮る。そこに少量の水を加えて練ったあと、牛乳を少しずつ注いでいく。沸騰させない程度に温めたら出来上がりだ。
ふたりぶんのマグカップを取り出すと、そこにほかほかのココアを入れていく。
ちらっと視線を幼馴染へ向けると、彼女はソファで仰向けに寝転がりながら天井をぼんやりと見つめていた。その右手は、赤く腫れている右頬をそっと押さえている。
彼女にいったいなにがあったのかはわからない。でも、俺を頼ってここへ来たのはわかる。
彼女にとって俺は頼りになる幼馴染。
それでいいと思っていた。
彼女が俺を必要としてくれるなら……。
先ほど見たドラマをふと思い出す。あの少年の想いは幼馴染の少女に届くのだろうか。高校生のふたりの関係をつい自分と重ねてしまう。
もしも、俺が幼馴染に好きだと伝えたら、彼女はどんな反応をするだろう。そして、どんな答えが返ってくるのだろう。