幼馴染からの抜け出し方
「森谷君のしたことは私にも彼女にもすごく失礼なことだと思う。きっと私よりも彼女の方が傷付いているはずだよ」
私はそっと息を吸うと吐き出した。
「私はもう森谷君と付き合う気はないから」
はっきりとそう告げると、目の前の森谷君は大きく目を見開き、しばらくは私を睨むようにじっと見つめていた。
「そうかよ」
しばらくすると吐き捨てるようにそれだけを告げて、森谷君は私たちに背中を向ける。そして、薄暗い住宅街の道を進み、やがて角を曲がると森谷君の姿はとうとう見えなくなった。
私は、思わずホッと胸を撫で下ろす。だいぶ後味は悪いけど、とりあえず解決でいいのかな。
森谷君との仲がこんなふうにこじれてしまって、できればもう顔を合わせたくはない。けれど、彼とは同じ職場なのだからそういうわけにもいかない。
そのことに少しだけ憂うつな気分になっていると、「ごめん、めぐ」と由貴ちゃんの控え目な声が聞こえた。
「俺、あいつにちょっと言い過ぎたかな」
「ううん。大丈夫」
由貴ちゃんが気にする必要はなにもない。彼は、私のことを守ろうとしてくれたのだから。
「ありがとう」
お礼の言葉を口にすると、由貴ちゃんは少しだけホッとしたように微笑んだ。けれど、すぐに大きなため息をこぼす。