幼馴染からの抜け出し方
「蓮見先輩……?」
ふと可愛らしい声が聞こえた。由貴ちゃんの傘の中に入っている女性の声だ。由貴ちゃんの腕にぴったりと寄り添っている彼女は、由貴ちゃんがさしている傘のおかげで雨に一滴も濡れていない。
私が、その傘の中に入りたい。彼女のように由貴ちゃんにぴったりとくっついて――。
「由貴ちゃん。私っ……」
――――あなたが好きです。
そう言いかけて、言葉を止めた。
由貴ちゃんの隣にいる女性と目が合って続きを言えなくなった。
私は、由貴ちゃんに掴まれていないほうの手を目元へ持っていく。涙なのか雨なのかわからない雫をごしごしとぬぐった。
それから、私の手首を掴んだままの由貴ちゃんの手をそっと振り払う。
「傘なら買うから私は大丈夫。呼び止めたりしてごめんね」
早口で言葉を返すと、私は雨の中を走り出した。
最低だ、私。また逃げてるよ……。
そんなことを思いながら、でも、足は止まらずに走り続けた。