幼馴染からの抜け出し方

　この腫れた頬の状態で家に帰るのはかなりマズい。心配性で過保護な母親が、血相を変えて何事かと詰め寄ってくるに違いない。

　けれど、『彼氏に二股をかけられていて、本命の彼女にビンタされちゃったんだよねー』とは、絶対に言えない。

　母親のことだ。きっと、『私の可愛いめぐちゃんが……』と、動揺して大泣きする姿が目に浮かぶ。そうなるとかなり面倒くさい。

　家に帰りたくないなぁ……。

　こんなときひとり暮らしなら楽なのに、私は訳あって実家を離れられない。その原因もやっぱり母親にあって、でももっと言うと父親のせいでもある。

　私の父親は外資系の商社に勤務していて、私が幼い頃から出張ばかりの人だった。五年ほど前からはインドネシアの関連企業に出向していて海外赴任中のため、私は母親とふたり暮らしの生活をしている。

　私まで家を出てしまえば母親はひとりで暮らすことになるのだけれど、お嬢様育ちの彼女は広い家にひとりで暮らすのが寂しくて耐えられないそうだ。

　以前、大学卒業をきっかけにひとり暮らしをしたいと思い切って母親に提案してみたところ、泣きながら引き止められて大変だった。