またいつか君と、笑顔で会える日まで。
「あらっ、もう出たの?廊下は暑いでしょ?入って入って」

クーラーのきいた涼しい室内に入って中を見渡す。

「あれ、萌奈はどこですか?」
「うん。ちょっと出かけててすぐに帰ってくると思う。何か飲む?お茶でいい?」

「いえ!大丈夫です!!!」

「そんなに遠慮しないで」

おばさんはクスクスと笑いながらキッチンの奥へ消えていく。

それにしてもいい家だ。広いリビングルームは綺麗に整頓され手入れが行き届いた床がピカピカに光っている。

センスのいい小物がところどころに置かれ、緑の観葉植物が部屋の中でいいアクセントになっている。

うちとは大違いだな。洋服や缶ビールが床に散乱し、足の踏み場もないうちとは。

部屋の壁には萌奈の幼い頃の写真が飾られていた。

公園の滑り台であどけない笑顔を浮かべながら降りてくる萌奈。七五三で少し硬い面持ちで着物を着る萌奈。小学校入学式の萌奈。

どの萌奈もとても幸せそうでなんだかこちらまで嬉しくなってしまった。

親に愛されて育ったからこそ、今の萌奈がいるんだろう。

あたしは親に愛されていたんだろうか?ほんのわずかでも愛をもらったんだろうか。

親というものは誰でも無償の愛を子供に注ぐものだと思われているけれど、例外はある。

自分のことを犠牲にすることはせず、子供を犠牲にする。

それどころか子供を自分の為に利用しようとする。

そんな親今すぐに捨ててしまえばいいと分かっているのにそれができないから厄介なのだ。

あちらに娘を愛する気がなくても、それでもまだ子供は親を、母親を求めてしまう。

もしかしたら、いつかは、そんな風に言い訳をして母親を切り捨てることができないのだ。

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