またいつか君と、笑顔で会える日まで。
「これね、昔母親に煙草を押しつけられてできた傷なのよ」

「え……?」

目の前が霞み、うまく声が出せない。固まるあたしに萌奈のお母さんはつづけた。

「腕だけじゃなくて見えない部分にもあるの。火傷みたいなものだから時が経っても消えなくて。驚かせてごめんなさいね」

「い、いえ」

かぶりを振る。信じられなかった。幸せな家庭を絵にかいたような萌奈のお母さんが虐待されていたなんて。そんなこと信じられるはずもなかった。

でも、どうしてこんな話をあたしに……?

ふとハーフパンツから覗く自分のふくらはぎに気が付いた。

青あざがいくつもできている。ハッとして顔を持ちあげる。

もしかしたら悟ったのかもしれない。

あたしも同じことをされていると――。

「あっ、あの……」

聞きたいことが溢れすぎて言葉にならない。

今、その母親はどうしているのか。他に何をされたのか。どうやって結婚したのか。どうやって家庭を築いたのか。どのように萌奈を愛したのか。どうやって育てたのか。虐待の連鎖を止められたのか。そして、どうやって今の幸せを気付いたのか。

「そのお母さんは今どこに……?」

「小3で母親と引き離されてから一度も会っていないし、分からないの。でも、いまだに思い出すのよ。あんなに酷いことをされたのに不思議ね。99%は嫌な思い出なのに、残りの1%に幸せだったころのことを記憶してるの」

噛みしめるようにいったその言葉にきっと嘘はないだろう。
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