またいつか君と、笑顔で会える日まで。
幼い頃、母の存在はとても大きかったのに今は見る影もない。

母もまた、幼い頃に虐待されていたのだということを後々知った。

虐待というものは簡単に解決できるものではないし、負の連鎖は続いてしまうものだ。

誰かがそれを断ち切らなくてはならない。強い意志を持った誰かが――。

そう。萌奈のお母さんのように。

「弱い人間にしか……暴力ふるえないくせに……」

もう息も絶え絶えだった。

鼓膜が破れてしまったのかもしれない。耳の奥の方でぼわんぼわんと自分の声がくぐもって聞こえてくる。

「なんだとこの野郎!!もういっぺんいってみろ!!」

「あたしは……負けない……。あたしの人生は……あたしだけのものだから」

「このクソガキが!!」

仰向けの状態で高橋があたしの頭をサッカーボールのように蹴り上げた。

瞬間、目の前が真っ白になった。音も何も聞こえない。全身から力が抜けていく。

無の世界が訪れ、あたしは意識を失った。

「――おい!!荷物まとめろ!!早くしろ!!」

「たっくん、待って!!」

薄っすらと目を開ける。何やら騒がしい。
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