またいつか君と、笑顔で会える日まで。
そっと空を見上げると、スコールがシャワーのように私の体に降り注いだ。


なんとか家に辿り着いたころには私はボロボロの姿になっていた。

酷く濡れたせいで顎が小刻みに震えて唇が真っ青になっているのが鏡をみなくても分かった。

震える体を両腕で摩りながら「ただいま」とできる限りの笑顔を浮かべる。

心配させたくなかった。また中学の時のようになったら、母はきっと悲しむだろう。

私のことを自分のこと以上に大切にしてくれている母だからこそ。

「ごめん、お母さん。制服濡れちゃった」

「萌奈、大丈夫?制服なんてどうだっていいのよ。電話してくれれば学校まで迎えに行ったのに」

「ごめん。途中で突然降り始めたから」

「このままじゃ風邪ひくわよ。シャワー浴びて着替えないと」

母は着替えとタオルを私に手渡すとバスルームへ行くように促した。

べちゃべちゃの制服と下着を脱ぎ捨てて生まれたままの姿になり、シャワーのコックを捻ると体中が暖かいぬくもりに包み込まれた。

このままさっきの出来事が洗い流されて記憶から消え去ってしまえばどんなにいいだろう。

良い記憶は忘れてしまうのに嫌な記憶は忘れられないのはなぜだろう。

目をつぶると頭に浮かんでくるのはリリカちゃんのことだった。

教室を出るとき声をかけてくれたのに私はその声を無視してしまった。

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