こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜
林田さんは家業に戻った。
樹と起業した会社は、
業績が良かったため
みすみす他に譲り渡せないという
親会社の意向が働き
親会社の中に新しい部署を立ち上げられた。

樹は林田さんに懇願されて、そのまま残った。

樹はそれで良かったのだろうか。
林田さんは旧態勢然とした自分の家業を嫌って
自由な会社を立ち上げたというのに
結局は戻って
新しい会社体制を作ると言って頑張っているらしいが
樹もややそれに巻き込まれながらも
前の会社から引き継いだ業務を
新しい部署立ち上げの人間に引き継ぎながら
苦労していた。

泣き言ひとつ
会社の愚痴ひとつ言う樹ではなかったが
私は折にふれて
いつでも自分が思うままに
していいと
樹には言っていた。

そんな中
ストレスで体調に波がある私だったが
妊娠した。
樹も多忙を極め
私の両親も父がリタイアをしたら故郷に戻るという計画を
実行して遠く離れてしまい
妊娠したけど
孤軍奮闘に日々がスタートしたのだが、
ましろも小学校1年生になって
手がかからなくなっていたのも
幸いだったし
理恵が自宅の最寄り駅近くに
独立して弁護士事務所と自宅を
構えたのも助けとなった。

理恵が引っ越しの挨拶に我が家へ立ち寄って
くれた時
つわりで半死状態だった私を
病院へ連れて行ったくれ
入院をしなくてはならなくなった時に
ましろの面倒まで見てくれたのだ。
以来
ずっとお世話になりっぱなしとなっている。

「やっと妊娠したと思ったら、樹が一番大変な時と重なっちゃって。
あんなに大変なのに、家に帰っても満足に起き上がれないお嫁さんに
気を遣っちゃって、帰ったら茉里の負担を増やすからって、この間は
うちに泊まったのよ。
妊娠は病気じゃないんだから、気の持ちようでしょ。
ましろもお友達に丸投げなんだから、少しは樹にも気を遣わなくっちゃね。」

入院をして点滴を打っている側から
義母から心ない言葉を浴びせかけられる。
たまたま
部屋に入ろうとしていた師長さんからそれを聞き咎められて
叱責されていたが、
いっそう義母の不満を募らせることになり
こんな失礼な病院じゃなくて、
自分の友人の病院に転院しろと怒っていた。

退院の時にやっと樹がやって来た。

「ごめん。師長さんから聞いた。母さんが酷かったらしいな。
あの人、何も考えずにものを言うから。俺からも言っておく。」

「もういいから。樹からそんなことを言われたら、
お義母さんいっそう逆上される。」

「退院してしばらくは家で安静にするんだろう。
俺は忙しいから母さんに来てもらおうか。
ちゃんと言い聞かせておくから。家事くらいできる人だからさ。」

「樹、、、今お義母さんと話すのはちょっと辛いかな。
母が今日の夕方からこっちに来て
しばらくいてくれるって言っているから。」
 
「茉里、母さんも寂しいんだと思う。ましろの時からお前が頼るのは実家ばかりだから
自分が蔑ろにされているようでさ。
母さんも言えばわかる人だと思うから。」

樹が私の立場を少しも理解していないことがわかった。
ましろを妊娠したら、計画性がないと言われ
二人目を妊娠したら、覚悟が足りないと言われ、
おまけに樹にまで迷惑をかけていると言われ。
私と樹の子なのに
何が迷惑なの。

「樹、今の私はお義母さんの気持ちを受け止められない。
申し訳ないけど、母に来てもらいたいの。それは私のわがままかしら。」

「茉里、、、あまり深く考えるなよ。
とりあえず今は茉里が落ち着く方向で行こう。
俺は茉里を家に送ったら、また会社に戻らなきゃいけなくて
お義母さんに挨拶できないけど、
電話するよ。」

「会社に泊まり?実家に泊まり?」

「会社に泊まりは流石に何日も無理かな。実家に帰るよ。
着替えも持っていって、洗濯してもらったり、便利だしな。」

「帰って来て欲しいけど。ましろもお父さんに会いたがっているわ。」

「俺が帰ってきたら茉里の負担だろう。
母さんからも茉里が落ち着くまで、家から会社に通えって言っているから。
夜中に帰って
朝も早く出かけてましろと会う時間もないから。
でも
週末には帰るよ。
茉里は心配しないで、ゆっくり休め。」

そうじゃないのよ。
渦巻く感情で目の前が真っ白になりそうだった。

私は知っているのよ。
あなたから香水の香りがしているのを。
忙しいと言って
違うところを見ていない?
その香水の香で
私は毎回吐きそうになっているのを
あなたは知ってる?

「茉里、、?」

「ふっ、、、また、お義母さんからお小言を頂戴するのね。
仕事で大変な主人の世話もできないなんて、妊娠のせいにしないのって。」

「茉里、、、茉里らしくない言い方だな。」

「ごめんなさい。
少し神経質になっているみたい。」

そこから
少しずつ樹と私の気持ちにズレが出て来たような気がする。

私の二人めの妊娠期はつわりと
ワンオペの負担からストレスが大きなものとなっていた。
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