こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜

衝撃

「あなたこれが初めてじゃないでしょう?」

私は自分の臆病さから目を背けてきたことに
真っ向から向き合うことにした。

「えっ?」

「私が廉を妊娠した時。
あなたは付き合っている人がいたわよね。
一線を超えた男女の関係を結んだ人が。。。」

私は目を逸らさずに、正面切って樹を見据えた。
樹の瞳が忙しなく動く。
かなり狼狽している様子が見てとれた。

「私はあなたが唯一の人として愛していたわ。
でも
仕事のことやあなたのお義母様とのことで、かなり辛いこともあったの。
特に仕事のことは林田さんが、信用できないと思って、
あなたの気持ちを
無視してと思われるぐらい、言ったと思う。
でも、あなたは友達のことをあれこれ言わないでくれって、
それはそれは、私に冷たく言ったのよ。
それに懲りて、何も言わないようにしていたのだけど、
やっぱり、今の会社に移籍するときは、
あなたは一番ひどい状態だったと思うの。」

樹は微動だにせず、
カップの中のコーヒーをじっと見つめていた。

「あなたに無理しないで、って言いたかったけど、また、拒絶されるのもつらくって
言葉を飲み込んでいたわ。
あの頃、不妊治療もつらくってあなたに聞いて欲しかったけど、
あなたは忙しくって、重い話を聞く余裕はなさそうだった。
あとは体外受精しかないというときに、あなたに言えず、
不妊治療を一旦やめたの。
辛かった。
お義母様やあなたからは二人目が欲しいと言われているのに、
妊娠できない自分がいて、
とても、自己嫌悪に陥ったわ。」

「。。。。。」

「それからしばらく体調を崩しがちになったのも、
そのメンタルな弱さから来ていたのかもね。
その頃からかな。
いや、あなたが林田さんに連れて行かれたというクラブからのプレゼントで、
あの香水をもらって来てからね。」

「。。。。。」

「どうやってもらったかは教えてくれたけど。
その香水をどうしたかは、教えてくれなかったわね。
いつの間にか無くなっていて、
その頃から、あなたからあの香水の香りがするようになったの。
あなたがつけていたのではなく、移り香。。。」
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