こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜
「 廉のことを思って
こんな夫婦だけど、その時は同じ気持ちで廉のことを悼んでいると
思っていたの。
思い込んでいたの。。。」

私は胸が詰まって次の言葉を中々言い出せないでいた。
そんな私を、樹は呆然と見ていた。
何も言い出せない私の肩を触れようとする樹の手を
瞬間、振り払って
樹をまっすぐに見つめて私は言った。

「廉の命日、私は私たち3人で静かにあの子のことを偲んで
手を合わせていたわよね。
毎年、毎年。
私は不甲斐なかった自分を恥じて、あなたは、、、どうなんだろう。
義務感で一緒に来ていたのかしら?」

「そんなことはない。
俺は俺のせいで、こんなことになっていたのを廉に謝って、茉里にもましろにも
謝っていた。」

樹の苦しさも感じていた。
私を痛々しげに見る彼の苦悩にも気付いていた。
でも
あの日は私たち家族が覚えていなくてはいけない日だと
私は思っていたのだ。
廉という私たちの子供が、ましろの弟がいたという証に。

「でも
あなたは段々と仕事が忙しいと言って、私たちと一緒ではなく。
別に行くようになったのよね。お義母さんたちを誘って。
そうしたら、私と一緒にいかなくて済むものね。
いつも、命日の前は仕事が忙しいと朝早く出て行って、夜遅く帰ってくるか
出張に行って不在か。。。
馬鹿みたいにわかりやすい。」

私は吐き捨てるように樹の行動パターンを言った。

「辛かったんだ。
自分がしでかしたことなのに。
廉の命日が近づくと、茉里が壊れていくのを目の前で見るのが。
まさか、深野のことを知っているとは思わなかったが、
茉里から恐ろしいことを言われるんじゃないかって。
一言も口を効かなくなっていく茉里と向き合うことも
怖かった。
自分でケリもつけられないことを、しでかした罰だと、、
仕事に逃げ、おふくろたちを隠れ蓑にして、、、
とことん卑怯な奴なんだ俺は。」

「本当は私たち、あの時にちゃんと話し合わなきゃいけなかったのよね。
お互いに怖くって、近づくこともしないで、逃げていただけ。
逃げ切るために、お互いの間に高い高い壁を築いたのよ。誰も登れないような。」

「。。。。。」

「仕事で行けなくって、別の日に行って、そうなってもう何年?
それでも仕事だってことで、私は自分を納得させていた。
樹も廉のことは忘れていないって。」
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