こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜
樹の思い2
「廉の命日、、、」
あぁ、、、
廉の命日だった。
この間の話だ。
「廉の命日。
カードでチェックしていないレシート、
お二人様のレストラン。
ジュエリーショップでのペンダントのレシート。
彼女のお誕生日だったのかしら?それとも何か記念日、、、?
答えて、、、」
何て短絡的に考えていたのだろう?
廉の命日だったから、今までと違ってかなり後ろめたく、
見咎められないようカードでの支払いはやめて、
全て現金で支払ったんだ。
何て、姑息なことをしたんだ俺は、、、。
「どっちなの?」
「どっちとは?」
「彼女のお誕生日か記念日か。。。」
「、、、、、、、」
「どっちだったの?
それとも別の特別な日?」
「誕生日だった。。。」
茉里の両目から止めどもなく涙が流れる。
俺は茉里の心を殺している。
「廉の誕生日で命日が、彼女の誕生日。
あなたは廉を捨てて、彼女を選んだのね。
私はそれが一番許せない。
あなたたちが一線を越えようと何しようと、
それ以上に、私に一番酷いことをあなたはしたのよ。
私たちの廉に、、、
私を殺したのよ。あなたに対する信頼や尊敬や、愛情を、
あなたが殺したのよ、、、」
「違う、、、
違うんだ。
彼女の誕生日をお祝いするというのは、
このプロジェクトを乗り越えられたらのご褒美という約束をしていた。
俺はそれを最後にしようと思っていた。彼女も充分に独り立ちできると思っていたから。
俺の補佐から外す時が来たと思ったから、彼女からお願いされて誕生日の食事の約束をしたんだ。
その日が、まさか廉の命日と同じ日だとは、、、」
「息子の命日だと言えばよかったのに、そういえばよかったのに。
あなたはそのことさえ言わずに、彼女を選んだ。」
「悩んでいたんだ。
会社を辞めようかどうしようか。林田が早々に会社からアメリカ支社にやられ
俺と一緒に移籍したみんなに責任が回ってきて、段々とその仕事量と責任に
身動きが取れなくなっていた。
ともかく立ち上げて頑張ってきた連中をほったらかしにもできずに、
社に残って業績を残して
引き継いで次の仕事に移りたかった。
上は次から次に仕事を取ってきて、プロジェクトを組む、
業績を自分のものにしたい役員連中ばかりで、俺たちは馬車馬のように働かせられる。
プロジェクトが成功したら、その成功を妬む奴もいる。
このまま俺が辞めたら、残された奴らはどうなる、、、と思ったら、
自分の進退もままならず、、、
そんな時に廉の命日が近づいてきて、茉里も塞ぎがちになってきて、、、逃げたんだよ。
卑怯なことに、重苦しい自分の現実から逃げたんだよ。」
「あなたの部下はいいわね。いつも守ってもらって。
私たち家族は、あなたに蔑ろにされて、心配をすることも心配されることも
許されない。
私の存在が、やりきれないくらい重いなら、私を捨てて逃げればよかったでしょっ!
中途半端に飼い殺しされながら、私はあれからの10年を過ごしたくなかった。」
「茉里、違うんだ。茉里やましろほど大事な人はいない。
ただ、どうしていいかわからず、、、
このまま黙っていればなかったことにできると、思った俺の浅はかな考えで
身動きを取れなくしてしまっていた。」
そうなんだ。
こうやって自分の過ちを認めるのが怖かった。
本当につまらない自分をさらけ出すことになるから。
「俺の中で茉里はいつも完璧だった。結婚してましろを妊娠しながらも
税理士の資格をとって、
働きながら家のことをして、仕事でも着実にキャリアアップして、
その間弱音一つ吐かずに
見事に全てのことをこなして、悩みながら、
心折れながら自分が思っていたことができないで
いつもこういうはずじゃなかったと思っている、
俺からしたら茉里は眩しかったんだ。」
「私だって、どうしようもないことで愚痴りたいし、あなたと言い合いたいし
自分の不安定な気持ちを聞いてほしかった時もあった。
決して、完璧なんかじゃないのはあなただって知っているはずでしょ。
それを見ないように、自分の都合がいいように解釈していたのはあなただし、
私はそれを是正することもしなかった。
私も怖かったのよ。あなたとこれ以上離れてしまうことが。」
茉里とまともに向き合うことが、あれ以来怖くなっていたんだ。
いつ、愛想を尽かされるんだろうって。
なのに、俺がしでかして来たことは全て、茉里を苦しめることばかりだ。
「廉のこともあって、私たちは悲しいことだけど、それで心を通わせていると
思っていたの。一緒に同じ悲しみで、あの子に手を合わせているって。
まだ、夫婦でいられている。きっとこの先どこかで、樹が落ち着いたらまた
あの穏やかな日が戻ってくると思っていたのよ。
自分が努力しないで、子を頼みにするなんて、私も酷いものね。
自分が辛い時に、妻に何も言えないのに、
よその女に逃げ込むようなことをするくらいだったら、離婚してくれって
言ってくれてもよかったのに。私と別れて、
よそのあなたの子供を亡くさないような人と
一緒になればよかったのに。」
茉里の血を吐くような言葉が、
突き刺さる。
本当だ、俺は茉里の一番大事な人でありたいために、
一番大事な茉里を傷つけてしまった。
あぁ、、、
廉の命日だった。
この間の話だ。
「廉の命日。
カードでチェックしていないレシート、
お二人様のレストラン。
ジュエリーショップでのペンダントのレシート。
彼女のお誕生日だったのかしら?それとも何か記念日、、、?
答えて、、、」
何て短絡的に考えていたのだろう?
廉の命日だったから、今までと違ってかなり後ろめたく、
見咎められないようカードでの支払いはやめて、
全て現金で支払ったんだ。
何て、姑息なことをしたんだ俺は、、、。
「どっちなの?」
「どっちとは?」
「彼女のお誕生日か記念日か。。。」
「、、、、、、、」
「どっちだったの?
それとも別の特別な日?」
「誕生日だった。。。」
茉里の両目から止めどもなく涙が流れる。
俺は茉里の心を殺している。
「廉の誕生日で命日が、彼女の誕生日。
あなたは廉を捨てて、彼女を選んだのね。
私はそれが一番許せない。
あなたたちが一線を越えようと何しようと、
それ以上に、私に一番酷いことをあなたはしたのよ。
私たちの廉に、、、
私を殺したのよ。あなたに対する信頼や尊敬や、愛情を、
あなたが殺したのよ、、、」
「違う、、、
違うんだ。
彼女の誕生日をお祝いするというのは、
このプロジェクトを乗り越えられたらのご褒美という約束をしていた。
俺はそれを最後にしようと思っていた。彼女も充分に独り立ちできると思っていたから。
俺の補佐から外す時が来たと思ったから、彼女からお願いされて誕生日の食事の約束をしたんだ。
その日が、まさか廉の命日と同じ日だとは、、、」
「息子の命日だと言えばよかったのに、そういえばよかったのに。
あなたはそのことさえ言わずに、彼女を選んだ。」
「悩んでいたんだ。
会社を辞めようかどうしようか。林田が早々に会社からアメリカ支社にやられ
俺と一緒に移籍したみんなに責任が回ってきて、段々とその仕事量と責任に
身動きが取れなくなっていた。
ともかく立ち上げて頑張ってきた連中をほったらかしにもできずに、
社に残って業績を残して
引き継いで次の仕事に移りたかった。
上は次から次に仕事を取ってきて、プロジェクトを組む、
業績を自分のものにしたい役員連中ばかりで、俺たちは馬車馬のように働かせられる。
プロジェクトが成功したら、その成功を妬む奴もいる。
このまま俺が辞めたら、残された奴らはどうなる、、、と思ったら、
自分の進退もままならず、、、
そんな時に廉の命日が近づいてきて、茉里も塞ぎがちになってきて、、、逃げたんだよ。
卑怯なことに、重苦しい自分の現実から逃げたんだよ。」
「あなたの部下はいいわね。いつも守ってもらって。
私たち家族は、あなたに蔑ろにされて、心配をすることも心配されることも
許されない。
私の存在が、やりきれないくらい重いなら、私を捨てて逃げればよかったでしょっ!
中途半端に飼い殺しされながら、私はあれからの10年を過ごしたくなかった。」
「茉里、違うんだ。茉里やましろほど大事な人はいない。
ただ、どうしていいかわからず、、、
このまま黙っていればなかったことにできると、思った俺の浅はかな考えで
身動きを取れなくしてしまっていた。」
そうなんだ。
こうやって自分の過ちを認めるのが怖かった。
本当につまらない自分をさらけ出すことになるから。
「俺の中で茉里はいつも完璧だった。結婚してましろを妊娠しながらも
税理士の資格をとって、
働きながら家のことをして、仕事でも着実にキャリアアップして、
その間弱音一つ吐かずに
見事に全てのことをこなして、悩みながら、
心折れながら自分が思っていたことができないで
いつもこういうはずじゃなかったと思っている、
俺からしたら茉里は眩しかったんだ。」
「私だって、どうしようもないことで愚痴りたいし、あなたと言い合いたいし
自分の不安定な気持ちを聞いてほしかった時もあった。
決して、完璧なんかじゃないのはあなただって知っているはずでしょ。
それを見ないように、自分の都合がいいように解釈していたのはあなただし、
私はそれを是正することもしなかった。
私も怖かったのよ。あなたとこれ以上離れてしまうことが。」
茉里とまともに向き合うことが、あれ以来怖くなっていたんだ。
いつ、愛想を尽かされるんだろうって。
なのに、俺がしでかして来たことは全て、茉里を苦しめることばかりだ。
「廉のこともあって、私たちは悲しいことだけど、それで心を通わせていると
思っていたの。一緒に同じ悲しみで、あの子に手を合わせているって。
まだ、夫婦でいられている。きっとこの先どこかで、樹が落ち着いたらまた
あの穏やかな日が戻ってくると思っていたのよ。
自分が努力しないで、子を頼みにするなんて、私も酷いものね。
自分が辛い時に、妻に何も言えないのに、
よその女に逃げ込むようなことをするくらいだったら、離婚してくれって
言ってくれてもよかったのに。私と別れて、
よそのあなたの子供を亡くさないような人と
一緒になればよかったのに。」
茉里の血を吐くような言葉が、
突き刺さる。
本当だ、俺は茉里の一番大事な人でありたいために、
一番大事な茉里を傷つけてしまった。