こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜
自分は思いの外冷静だと思っていたけど
樹のあまりにも理由にならない話を聞かされて
私は自分の気持ちが
激昂していくのがわかった。

「その日、どうやって食事に行ったの?」

「えっ、、、?」

自分が傷つくとわかっていて、その日の二人の行動をなぞりたかった。

「言って、嘘はいらないからその日二人でどうやって時間を過ごしたか教えて!」

「茉里、、、」

樹の顔が痛ましいものを見るように歪む。
その様子を見て、私も余計に苛立つ。

「会社から二人で出たの?、
樹!」

「いや、、、みんなの噂になるようなことはしたくないからと、レストラン近くのカフェで
待ち合わせた。」

「何もやましいことがないと言う割には、噂にはなりたくなかったのね。。。
それから?、、、食事に行ったの?」

「途中に彼女が好きだというブランドを扱うジュエリーショップがあって、
好きなんですよね。ここのアクセサリー、
と彼女が言ったからプレゼントをしようと、俺が言った。」

「あなたが選んであげたの?二人で仲良く肩寄せ合って
ショーケースを覗き込んでいたのかしら?」

「いや、、、斉木がペンダントがいいと言ったから、俺に選んでくれと言ったから、、、」

「ふ、、、」

私は小さく笑うと立ち上がって、寝室に入っていった。
クローゼットの引き出しに入っている封筒の束を掴んで
樹の前に戻った。

「私の誕生日にこれで好きなものでも買って。俺はプレゼントのセンスはないから。って。
ありあわせの封筒にお金を入れただけのこんなもの!
ほら、これ全部、ここで全部返す!
そんなので喜ぶと思う?花一本でもいいから、あなたが選んで買ってきて
欲しかったのに。
あなたがくれたそのまんま、一円だって手をつけてないわ。
全部返す!こんなのいらない!
そんなあなたが彼女のためにプレゼントを買ってあげるなんて、、、
これが私への裏切りじゃなくて何なの。
どこからどう考えても、私に心なんか残してないでしょう!」

「違う!何も考えていないから、食事にも連れていって、プレゼントも買ってあげたんだ。
廉の命日にそれをしたというのは、本当に自分を殴ってやりたいほど、後悔をしている。
斉木には悪いが、茉里と比べることもなかったし、初めからそういう思いもなかったから
簡単に食事に連れていったりして、俺が迂闊だったと思っている。」

「彼女は、あなたに惹かれたでしょうね。優しい大人の男。。。
その日に上司と部下から男と女になったのかしら?」

「一度もそういう関係になったことはない。
道を踏み外したことがある人間だ。そんなことにはならないし、
斉木をそういった存在で見たこともない。
でも斉木は違った。
その日の帰りに斉木から告白された。
一度でいいですから、それで忘れますから、、、って。
血の気が引く思いだった。
段々と気づいてはいた、彼女の距離が近づいて来ているのも。
だからこそいっそう
その日で終わりにすると思ったんだ。」

「、、、、」

「こんな嫌な話を聞かせてごめん。i
でも知って欲しいんだ。茉里が疎ましくてとか、そういう気持ちは微塵もなかった。
俺の卑怯な気持ちに他ならない。
俺は茉里が大事だ。愛している。ましろが大事で、、、、」

樹は必死で言い訳をしていたけど、
樹の言い訳が何ひとつ、私の頭の中に入ってこなかった。

「彼女、それで納得したの?あなたに取り縋ったんじゃないの。」

「俺はそういう気持ちはないし、妻を愛しているからその時の流れで
好きでもない他の人を、抱くことはできない。
斉木も自分を貶めるようなことをするな、、、って諭して、別れた。
安易にプレゼントをしたことが重くのしかかってきて、
次の日会社で斉木を見たときに、そのペンダントをしていて
自分がしてきた事が間違いだったって、、、思い知った。
それから
斉木を俺のアシスタントから元のところに戻して、
そこで次のプロジェクトの準備を始めたんだが、斉木がダウンし始めて、
周りと不協和音を出すようになって、、、
もう俺は放っておいたんだ。酷いだろ。自分を守るために今度は手を離したんだ。」

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