こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜
『妻が会って話したいと言っている。』

俺はもう後には引けない気持ちで、斉木に連絡を取った。
本心を言えば
もう会いたくなかった。

暫くして既読になったが、中々返事は来なかった。
きっと
考えているのだろう。

『わかりました。思いっきりアウェーの中に飛び込ませていただきます。』

彼女の強気な返事がきた。
強がっているのかもしれないが、
加藤が言った言葉が頭の中でリフレインした。

「彼女ああ見えて、中々あざといですよ。。。」

俺は人を見る目もないらしい。
一番
人でなしは俺だけど。

その後、
待ち合わせの場所や時間を指定して連絡を終了させた。
そのまま
斉木の連絡先を削除したかった。

「樹、お腹が空いたら冷蔵庫のものを勝手に食べて。
私は理恵のところに行って、ましろの様子を見てくる。
今日はもう、これ以上話したくないから、理恵のところに泊まると思うの。
身の回りのことは自分でしてね。
昨日着ていたもの一式下着からスーツに至るまで、全て処分させてもらったから。
着ていこうと思っていたら、ごめんなさい。弁償はするから心配しないで。」

「。。。。」

茉里はそういうと予め準備していたのか、
キャリーを引いてあっさりと家を出て行った。

全て処分か、、、
茉里がそんな感情的になる姿など、これまで見たことがあっただろうか。
きっとあっただろうけど、
俺が我慢させていたのか
茉里が我慢強いのか。

我慢させていたんだろうなぁ。
茉里に負担をかけてはいけないと、きれいごとを言いながら、
その実自分の弱さをさらけ出せない
という、どうしようもないヘタレな俺を見せたくなかっただけだ。
茉里はいつでも俺についてきて欲しかった。
いや
俺が茉里なしで生きていたくなかっただけだ。
茉里はいつでも俺のことをわかってくれていると、慢心していた。
考えたら、
林田と会社を立ち上げてからずっと
自分勝手なことばかりをしてきたのかもしれない。

茉里がいないだけで
家の中が寒く感じる。
料理の匂いも、洗濯物の匂いも、何もない。
寝室で聞こえてくる茉里の静か寝息もない。
すぐそこにいたのに
俺は茉里に手を伸ばすことも
抱きしめることもしなかった。
何も望まない茉里に、俺との生活に何の不足もないものだと思い込んでいた俺は
本当にとんだ馬鹿野郎だ。
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