こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜
これで本当に樹がこの子に気がなかったら、
霞網に絡め取られたのだろうと
思うほど
この子は上手に本能のまま樹に近づいて行ったのだと
わかった。
でも
樹も少しはこの子の自分に対する女としての好意に気づいていたのでは
ないだろうか。
どこか
危うさを持つ二人の関係。
「西澤さんはいかがです。」
理恵が樹の言い分を促す。
樹が声を絞り出すようにして話し始めた。
まずは
彼女が自分が救ってあげられなかった最初の部下に重ねてしまって
半ば贖罪のような気持ちで彼女に接し始めたこと。
悪いことだとは思わなかったので
妻もチェックするカードで支払いを行なっていたこと。
ただ
回を重ねるごとに彼女が自分に上司に対する好意以上のものを
持っているような気がして
気をつけなくてはいけないと思い始めていた。と。
「確かに
俺と茉里はゆっくりと二人の時間を過ごす時間もなく
それが当たり前のようにしてきた。
だからといって、うまくいっていない夫婦とは思わなかった。
そのことが今回、茉里に対して非常に申し訳なかったことだと
感じてる。
斉木と比べることもなく、俺にとって茉里は特別の存在だ。
どんなに忙しくても、どんなに大変でもいつも茉里は俺の味方だと
思っていた。」
そうなんだ。
それが当たり前だと思っていて、茉里を労る言葉ひとつかけないで来てしまった。
「斉木は茉里に勝ったとか言っているが、勝ちとか負けとかではなく
それ以前にそういう存在じゃないんだ。
君は会社の部下、どうにかして一人前にしたい部下だったんだ。
一人前になってから、手を離れて異動なり辞職なりした方が、いいのではないかと。
余計なお世話だったな。
お前は、あの時の壊してしまった彼女とは違う人間だった。」
斉木の指が神経質そうに、
俺がプレゼントしてしまったペンダントを触っていた。
「誕生日の日もお前を選んだわけではない。
どうしてそうなったかは、俺と茉里の話だから、
ここでいう必要はないと思っている。
あの日は本当に最後だと思っていた。
ペンダントも、今考えれば上手に誘導されて買わされと言っていいのかな、
と勘繰ってしまう。
これで卒業だと、最後に一度でいいですから抱いてくださいって
言われたんだ。」
もう何もかもが、斉木の思い通りに動かされていたのか、と半ば腹立つ思いで
斉木を見た。
斉木はペンダントに手をやったまま、
茉里を睨んでいる。
違うだろ。
睨むんだったら俺だ。
「冗談じゃないと、思った。
そんなことができるわけがない。
斉木の中で、俺は妻がいるのに平気で他の女に手を出すような輩に
見られていたのかって。
据え膳食わぬは、何とかって。
でも
そういう誤解を与えたのは、俺の偽善者ヅラのせいで、
本当に申し訳なかったと思っている。
会社でもそういう噂が立っていたなんて、会社に居づらい空気を作ってしまって、
配慮が足りずに、、、
すまなかった。」
「謝らないでください。
余計に惨めになります。」
「あの日も、俺が周りの目を気にしないで、断ればよかったんだ。
ワインを飲む斉木を置いて帰ればよかったと、思っている。泣き喚こうが叫ぼうが、、、
ホテルの前で、そんなお前に迫られた時にこの一回が底なし沼になるんだろうなと、
思ったよ。
それぐらい、もう斉木と関わってはいけないと思った。
俺から救いの手を差し伸べていて、勝手な言い草だが。
そんなになりふり構わずに女性に迫られて、それが煩わしくって
早く決着は付けたかったが
好きでも何でもないのに、やけで女なんか抱けるわけないだろうって。
自分で蒔いた種なのに、刈り方がもうわからなくなっていたんだな。
自分を立て直した時に、ましろが叫んだ。」
「嫌われましたか、、、私。」
「いや。
嫌いでも好きでもない。
そういう存在じゃないんだ。」
そうだ。
斉木を好きだとか嫌いだとか思ったことはない。
彼女は俺が守るべきと思っていた部下なんだ。
「斉木。。。」
俺は彼女に呼びかけた。
「はい。」
「この部屋に入ってきて、斉木史織と言いますって名乗ったよな。」
「はい。。。」
「俺は、その時初めてお前が斉木 史織だと知ったんだ。
俺が知っているのは斉木という名前の俺の部下で、それ以上もそれ以下でもない。」
「残酷ですね。
史織って呼んでもらいたかったのに。
でも
室長って鈍感だから、私に惹かれているって気がつかなかっただけですよ。
私のことをただの部下だと思っていたら、
あんなふうに二人で食事に行ったりして
時間を過ごすなんてしなかったでしょう?
あの時、もっと押せばよかった。
お嬢さんに見つからなかったら、ホテルに入っていたかもしれませんね。」
斉木の微笑みが悪魔のように見えた。
「それはない。
ましろには本当にタイミング悪く見られてしまって、
あの子を傷つけてしまった。
それは茉里に対してもそうだ。この場で、俺たちが言っている一言一句が茉里を
傷つけている。
でも 斉木。
俺は断じて、お前と不倫なんて関係にはならなかった。
ただ、お礼を言いたいのは、
偽善者の俺と、独りよがりの俺を気づかせてくれてありがとう。
これで、俺も会社を辞める決心がついた。」
「室長、、、奥さんの前だから格好をつけてあるんでしょ。
室長から奥さんの匂いなんて少しもしませんでしたよ。
私といる時の方が、自然な室長だったと私は思っています。」
霞網に絡め取られたのだろうと
思うほど
この子は上手に本能のまま樹に近づいて行ったのだと
わかった。
でも
樹も少しはこの子の自分に対する女としての好意に気づいていたのでは
ないだろうか。
どこか
危うさを持つ二人の関係。
「西澤さんはいかがです。」
理恵が樹の言い分を促す。
樹が声を絞り出すようにして話し始めた。
まずは
彼女が自分が救ってあげられなかった最初の部下に重ねてしまって
半ば贖罪のような気持ちで彼女に接し始めたこと。
悪いことだとは思わなかったので
妻もチェックするカードで支払いを行なっていたこと。
ただ
回を重ねるごとに彼女が自分に上司に対する好意以上のものを
持っているような気がして
気をつけなくてはいけないと思い始めていた。と。
「確かに
俺と茉里はゆっくりと二人の時間を過ごす時間もなく
それが当たり前のようにしてきた。
だからといって、うまくいっていない夫婦とは思わなかった。
そのことが今回、茉里に対して非常に申し訳なかったことだと
感じてる。
斉木と比べることもなく、俺にとって茉里は特別の存在だ。
どんなに忙しくても、どんなに大変でもいつも茉里は俺の味方だと
思っていた。」
そうなんだ。
それが当たり前だと思っていて、茉里を労る言葉ひとつかけないで来てしまった。
「斉木は茉里に勝ったとか言っているが、勝ちとか負けとかではなく
それ以前にそういう存在じゃないんだ。
君は会社の部下、どうにかして一人前にしたい部下だったんだ。
一人前になってから、手を離れて異動なり辞職なりした方が、いいのではないかと。
余計なお世話だったな。
お前は、あの時の壊してしまった彼女とは違う人間だった。」
斉木の指が神経質そうに、
俺がプレゼントしてしまったペンダントを触っていた。
「誕生日の日もお前を選んだわけではない。
どうしてそうなったかは、俺と茉里の話だから、
ここでいう必要はないと思っている。
あの日は本当に最後だと思っていた。
ペンダントも、今考えれば上手に誘導されて買わされと言っていいのかな、
と勘繰ってしまう。
これで卒業だと、最後に一度でいいですから抱いてくださいって
言われたんだ。」
もう何もかもが、斉木の思い通りに動かされていたのか、と半ば腹立つ思いで
斉木を見た。
斉木はペンダントに手をやったまま、
茉里を睨んでいる。
違うだろ。
睨むんだったら俺だ。
「冗談じゃないと、思った。
そんなことができるわけがない。
斉木の中で、俺は妻がいるのに平気で他の女に手を出すような輩に
見られていたのかって。
据え膳食わぬは、何とかって。
でも
そういう誤解を与えたのは、俺の偽善者ヅラのせいで、
本当に申し訳なかったと思っている。
会社でもそういう噂が立っていたなんて、会社に居づらい空気を作ってしまって、
配慮が足りずに、、、
すまなかった。」
「謝らないでください。
余計に惨めになります。」
「あの日も、俺が周りの目を気にしないで、断ればよかったんだ。
ワインを飲む斉木を置いて帰ればよかったと、思っている。泣き喚こうが叫ぼうが、、、
ホテルの前で、そんなお前に迫られた時にこの一回が底なし沼になるんだろうなと、
思ったよ。
それぐらい、もう斉木と関わってはいけないと思った。
俺から救いの手を差し伸べていて、勝手な言い草だが。
そんなになりふり構わずに女性に迫られて、それが煩わしくって
早く決着は付けたかったが
好きでも何でもないのに、やけで女なんか抱けるわけないだろうって。
自分で蒔いた種なのに、刈り方がもうわからなくなっていたんだな。
自分を立て直した時に、ましろが叫んだ。」
「嫌われましたか、、、私。」
「いや。
嫌いでも好きでもない。
そういう存在じゃないんだ。」
そうだ。
斉木を好きだとか嫌いだとか思ったことはない。
彼女は俺が守るべきと思っていた部下なんだ。
「斉木。。。」
俺は彼女に呼びかけた。
「はい。」
「この部屋に入ってきて、斉木史織と言いますって名乗ったよな。」
「はい。。。」
「俺は、その時初めてお前が斉木 史織だと知ったんだ。
俺が知っているのは斉木という名前の俺の部下で、それ以上もそれ以下でもない。」
「残酷ですね。
史織って呼んでもらいたかったのに。
でも
室長って鈍感だから、私に惹かれているって気がつかなかっただけですよ。
私のことをただの部下だと思っていたら、
あんなふうに二人で食事に行ったりして
時間を過ごすなんてしなかったでしょう?
あの時、もっと押せばよかった。
お嬢さんに見つからなかったら、ホテルに入っていたかもしれませんね。」
斉木の微笑みが悪魔のように見えた。
「それはない。
ましろには本当にタイミング悪く見られてしまって、
あの子を傷つけてしまった。
それは茉里に対してもそうだ。この場で、俺たちが言っている一言一句が茉里を
傷つけている。
でも 斉木。
俺は断じて、お前と不倫なんて関係にはならなかった。
ただ、お礼を言いたいのは、
偽善者の俺と、独りよがりの俺を気づかせてくれてありがとう。
これで、俺も会社を辞める決心がついた。」
「室長、、、奥さんの前だから格好をつけてあるんでしょ。
室長から奥さんの匂いなんて少しもしませんでしたよ。
私といる時の方が、自然な室長だったと私は思っています。」