こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜
彼女の自分に酔ったような話は
聞いていて
悪いお酒を飲んだような、とても気分の悪いものだった。
こんな若い子の手練手管にに引っかかってと、
樹を詰りたい気持ちでいっぱいだったが、
彼女に隙を見せたのは樹だから仕方がない。
そんな樹ときちんと向き合わなかった私も悪い。
そんな夫婦関係の隙を、巧みにこの若い子に
突かれてしまったんだ。
「会社を辞める決心がついた。。。」
また
馬鹿みたいに一人で決めちゃって。
「茉里。
すまない。
こんな情けない俺だけど、茉里には一緒にいて欲しい。」
「樹。
ここではやめましょう。それは私とあなたの話だから、また別の時に。」
「そうね。
では茉里さん、あなたの言い分は。」
理恵が樹の暴走を抑えるように言った。
「私の樹へ言いたいことは、もう言ったし、あとは私と樹の問題だから。
斉木さんには、、、」
彼女にゆっくりと視線を合わせた。
初めは挑戦的に私を睨んでいた彼女の瞳は、樹の話を聴き進むに従って、
不安と悲しみに揺らぎ始めていた。
「樹とあなたの話は二人で話して。
あなたたち二人の行いの結果、娘のましろが一番傷ついている。
中三の娘が、父親大好きな娘が、この世の終わりにでも見たくない光景を
見たんですものね。
見つからなかったらセーフという問題でもなく、
家族をどんなに混乱させ悲しませたのか。
自分が幸せならと他はどうでもいい、という単純な問題でもないでしょ。
樹と私が仮面夫婦だとしても、それは私と樹の問題で、
あなたがそれを利用して私たち夫婦の隙に
つけいっていい話ではないと思うの。
自分の問題も片付けられない男に、
次の問題なんか抱え込めるはずないじゃない。」
彼女は神経質そうにペンダントをいじる。
「あなたは私に勝った、とそればかり言っていたけど。
私と樹の何を知っているんだろう。
樹との間に子供を産んで、子供を亡くして、
もう経験したくないこともたくさん夫と一緒に
経験してきたの。
想像もできないような時間を過ごしてきたのよ。
勝ったの負けたのって、何だろうね。私と勝負しようなんて思わずに、
自分自身で樹にぶつかれば
よかったんじゃない?
私と勝負して、勝ったの負けたのってなるから、
私からの恨みも買うのよ。」
恨みというフレーズに彼女の身体がぎくりと固まった。
樹も思わず顔を上げて、私を見た。
そう
私は彼女に恨みを持っている。
「あなたと樹、、、それは二人のことで私では
どうしようもないこともあるかもしれない。
けど、あなたは私たちの息子の命日にわざと、
樹を試すように誕生日祝いを持ちかけた。
私の息子よ。
生みたくても生きてこの世に送り出してあげられなかった、息子。
あなたにわかるかしら?私の痛みが。
何年経っても、忘れられない私の痛みが。
その子を引き合いに出して、樹を試したのよ。
そして、、、勝った。。。ふざけないでよ!
ましろに見つかったからこうなった、、、
ふざけないでよ!
私が許せないとするなら、あなた等二人は、
自分たちの勝手で私の大事な子供達の
心を殺したのよ。
自分が好きだから、自分が守ってあげなくちゃいけないから、、、、
何きれいごとで済ませようとしているのよ。
あなた達二人がどうなろうと知ったこっちゃないわ。
できれば、このまま私たちの前から消えて。。。」
泣きたくなかった。
泣くもんかと思った。
樹は頭を抱え込んで表情を見せなかった。
彼女はペンダントに手をかけたまま、俯いたまま身動きもしなかった。
私は落ち着きを取り戻して彼女に声をかけた。
「斉木さん、そのペンダント、よく似合っているわ。
私に見せたかったのよね。
私はあなたに勝ったんですよって。
亡くした息子さんより、それを悲しんでいる奥さんより
私を選んだんです。
だから
あなたは邪魔者です。」
彼女の大きな瞳が私を捉えた。
ぎゅっとペンダントを掴むと徐に、手を首の後ろに回して
それを外し、テーブルの上に置いた。
「もう2度と、会いません。」
はっきりと言った。
「斉木さん、あなたには法的な請求等が生じるかも知れません。
ご実家の住所を教えてください。もし、
拒否されるととても面倒なことになりますよ。」
理恵が立ち去ろうとした彼女に畳みかける。
彼女の顔が一瞬顔面蒼白になった。
「家のものに知られるのは困ります。
どこか友人宅でも送ってもらえませんか。」
「そういうわけにはいきませんよ。法的なことですから。
ただ、うちの事務所から送る際は、外封筒を私の名前で中にきちんと書類を入れて、
内容証明付きで送りますが、いかがでしょうか。
さっ、あちらでご住所をご記入ください。」
彼女の背を押しながら、理恵も一緒に出て行った。
なんのやましいこともないように言っていた彼女だが
親にこのことが知られるのはいやらしい。。。
勝手なものだ。
樹と二人取り残された。
結局彼女からはなんの謝罪の言葉も出なかった。
聞いていて
悪いお酒を飲んだような、とても気分の悪いものだった。
こんな若い子の手練手管にに引っかかってと、
樹を詰りたい気持ちでいっぱいだったが、
彼女に隙を見せたのは樹だから仕方がない。
そんな樹ときちんと向き合わなかった私も悪い。
そんな夫婦関係の隙を、巧みにこの若い子に
突かれてしまったんだ。
「会社を辞める決心がついた。。。」
また
馬鹿みたいに一人で決めちゃって。
「茉里。
すまない。
こんな情けない俺だけど、茉里には一緒にいて欲しい。」
「樹。
ここではやめましょう。それは私とあなたの話だから、また別の時に。」
「そうね。
では茉里さん、あなたの言い分は。」
理恵が樹の暴走を抑えるように言った。
「私の樹へ言いたいことは、もう言ったし、あとは私と樹の問題だから。
斉木さんには、、、」
彼女にゆっくりと視線を合わせた。
初めは挑戦的に私を睨んでいた彼女の瞳は、樹の話を聴き進むに従って、
不安と悲しみに揺らぎ始めていた。
「樹とあなたの話は二人で話して。
あなたたち二人の行いの結果、娘のましろが一番傷ついている。
中三の娘が、父親大好きな娘が、この世の終わりにでも見たくない光景を
見たんですものね。
見つからなかったらセーフという問題でもなく、
家族をどんなに混乱させ悲しませたのか。
自分が幸せならと他はどうでもいい、という単純な問題でもないでしょ。
樹と私が仮面夫婦だとしても、それは私と樹の問題で、
あなたがそれを利用して私たち夫婦の隙に
つけいっていい話ではないと思うの。
自分の問題も片付けられない男に、
次の問題なんか抱え込めるはずないじゃない。」
彼女は神経質そうにペンダントをいじる。
「あなたは私に勝った、とそればかり言っていたけど。
私と樹の何を知っているんだろう。
樹との間に子供を産んで、子供を亡くして、
もう経験したくないこともたくさん夫と一緒に
経験してきたの。
想像もできないような時間を過ごしてきたのよ。
勝ったの負けたのって、何だろうね。私と勝負しようなんて思わずに、
自分自身で樹にぶつかれば
よかったんじゃない?
私と勝負して、勝ったの負けたのってなるから、
私からの恨みも買うのよ。」
恨みというフレーズに彼女の身体がぎくりと固まった。
樹も思わず顔を上げて、私を見た。
そう
私は彼女に恨みを持っている。
「あなたと樹、、、それは二人のことで私では
どうしようもないこともあるかもしれない。
けど、あなたは私たちの息子の命日にわざと、
樹を試すように誕生日祝いを持ちかけた。
私の息子よ。
生みたくても生きてこの世に送り出してあげられなかった、息子。
あなたにわかるかしら?私の痛みが。
何年経っても、忘れられない私の痛みが。
その子を引き合いに出して、樹を試したのよ。
そして、、、勝った。。。ふざけないでよ!
ましろに見つかったからこうなった、、、
ふざけないでよ!
私が許せないとするなら、あなた等二人は、
自分たちの勝手で私の大事な子供達の
心を殺したのよ。
自分が好きだから、自分が守ってあげなくちゃいけないから、、、、
何きれいごとで済ませようとしているのよ。
あなた達二人がどうなろうと知ったこっちゃないわ。
できれば、このまま私たちの前から消えて。。。」
泣きたくなかった。
泣くもんかと思った。
樹は頭を抱え込んで表情を見せなかった。
彼女はペンダントに手をかけたまま、俯いたまま身動きもしなかった。
私は落ち着きを取り戻して彼女に声をかけた。
「斉木さん、そのペンダント、よく似合っているわ。
私に見せたかったのよね。
私はあなたに勝ったんですよって。
亡くした息子さんより、それを悲しんでいる奥さんより
私を選んだんです。
だから
あなたは邪魔者です。」
彼女の大きな瞳が私を捉えた。
ぎゅっとペンダントを掴むと徐に、手を首の後ろに回して
それを外し、テーブルの上に置いた。
「もう2度と、会いません。」
はっきりと言った。
「斉木さん、あなたには法的な請求等が生じるかも知れません。
ご実家の住所を教えてください。もし、
拒否されるととても面倒なことになりますよ。」
理恵が立ち去ろうとした彼女に畳みかける。
彼女の顔が一瞬顔面蒼白になった。
「家のものに知られるのは困ります。
どこか友人宅でも送ってもらえませんか。」
「そういうわけにはいきませんよ。法的なことですから。
ただ、うちの事務所から送る際は、外封筒を私の名前で中にきちんと書類を入れて、
内容証明付きで送りますが、いかがでしょうか。
さっ、あちらでご住所をご記入ください。」
彼女の背を押しながら、理恵も一緒に出て行った。
なんのやましいこともないように言っていた彼女だが
親にこのことが知られるのはいやらしい。。。
勝手なものだ。
樹と二人取り残された。
結局彼女からはなんの謝罪の言葉も出なかった。