こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜

これから

私の手を取って
今にも
泣き出しそうな樹に
昔の私たちのことを思い出して
少し
笑った。

感極まったのか
樹が私を抱きしめた。

驚いたけど
私が知っている樹より細身になって
また
別の意味で驚いた。

本当に久しぶりの樹の腕の中
そこからは
私が好きだった樹の匂いしか
しなかった、

樹と今までになく話をして、
最後までましろに一目会いたかったと言いながら
翌日
シンガポールへ発って行った。

行ったら樹のことだ
連絡すると言いながらも仕事に没頭して
二の次三の次になっていくのだろう。

それもまた
樹だ。

私は仕事を続け
ましろは樹に似たのか
自分の将来の目標を定め
真面目な高校生活を送った。
友達にも恵まれているようだ。

理恵は
驚いたことに
8歳年下のパラリーガルの男の子と
気がついたら結婚していた。

自分がこの子を一人前にすると
言って
笑っていた。

樹はシンガポールから
本当に
毎日メッセージを送ってきた。


’おはよう。今日も暑い。’
とか
今日は何を食べたとかどこに行ったとか、
極々
普通のことを写真付きで送ってきた。

そのメールに
私は3回に一度くらいしか返信しなかったが
それでも律儀に樹からのメッセージは続けられた。
おかげで、メッセージが来ない日は、何かあったのではないかと
却って心配になるくらいだった。

毎日
代わり映え映えのない生活を送る私に
ましろも理恵もシンガポールへ一回行って来たらと
勧めるのだが
いったい
行って何をしたらいいのか。。

樹が廉の命日に帰国しているのを知っているのだが、
彼も私も会おうという言葉が出なかった。

こうやって
離れているからこそ
お互いのことを冷静に考えられていると
私は思っている。

もし
樹に好きな人ができたら、、、
今度こそ
ちゃんと別れてあげよう。

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