薔薇の嵐が到来する頃 吹き抜ける物語 ~柚実17歳~
「リスだよ」
 彼の口から“可愛い”の単語が出るなんて、珍しい。
 不覚にもどっきんとしてしまって、私はおどけた。
「あ、リス~」
「リスだ~」
 ちいさな兄妹と思わしき子が、人差し指を掲げながら近づいてきた。
「あ、ごめんね。見えないね。どうぞ。純、行こ」
 彼らに場所を譲り、私たちはその場を離れた。
「キリン!」
 次に目に入ってきたのは、悠々と草を食むキリンだった。
「大きいな」
「目も大きい~。ぐりぐりしてる」
「舌も長い」
 人間と野良猫以外の生き物を見るのは、とても新鮮だ。
「キリンって、普通の民家で飼ってもいいんだ」
「え? そうなの」
「確か」
「すごい。でも飼いたくない。部屋のなか覗かれそう」
「はは」
 ぐいん、とキリンが私たちに鼻を近づけてきた。
「わ」
 びっくりして、私は純の腕に絡みつく。
 彼は怯むことなく、まじまじとキリンの顔を見つめる。
「へ~。毛並み綺麗だな」
「綺麗? 私のこと?」
「キ・リ・ン」
「ちぇ。次、行こうか」
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