薔薇の嵐が到来する頃 吹き抜ける物語 ~柚実17歳~


「お邪魔……します」
 純は私の家の玄関に入るなり、周りをきときとと見回す。
「大丈夫だって。お母さんいないから」
 母は職場の春の慰安旅行とか言って、桜を見に西日本の方へ泊まりで今日は留守。
 うちはひとり親家庭なので、他に家族はいない。
 親に純のこと紹介してもいいのだけれど、それは恥ずかしいからまじ勘弁と、いつも純は言っていた。
 だけど、今日は誰もいないし、明日は日曜日で学校が休みなので、純を家へ招待した。
 私はふたり家族なのに、一軒家に住んでいる。
 この家を誰のお金で買ったのか、ローンはまだ残っているのかとか、雑多なことは知らない。
 ただ私は、毎日陽気に暮らしている。それでいい。
 礼儀よく靴を揃えて、純は中に入ってくる。
 廊下の左手にすぐリビングがあり、そこからキッチンも見渡せる。
「お茶でも淹れるよ。ソファに座ってテレビでも見てて」
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