人見知りな私と悪役令嬢がフェードアウトしたら

キレた後と、予期せぬ展開

主人公視点/アルス視点



 キレた結果、掌を返したように持ち上げられたのにはまいったが――自分が人見知りであること。そして下手に表舞台に出るのではなく、修道院でひっそり暮らしたいと言うとアルスは任せろとばかりに頷いた。

「教会と修道院の立ち位置のように、表舞台は私が引き受けよう」
「ありがとう……ございます」
「いやいや、それこそ君が教皇になりたいのなら、私はいくらでも手助けするが……君の謙虚さは、よく解っている。それならばむしろもっと精進し、当初の目標通り教皇となって君を支えよう」
「……さようでございますか」
「ああ!」

 言いたいことを言い、笑顔で立ち去るアルスを私と、私を抱き上げたままのラウルさんは見送った。ついため息をついてしまったのに、ラウルが言う。

「……アルスが、本当にすまない」
「いえ! ラウルさんが謝ることでは……そ、それよりお互い、労働や稽古に戻りましょう!」
「ああ、聖女様」
「……私みたいな子供に、その呼び方はやめませんか?」
「悪いが、それは聞けないな……むしろ、他の者からも呼ばれると思うから、観念しろ」
「えぇ……」
「イザベル、大丈夫!? 何か、教会から暴風雨みたいな子があんたに突撃したって聞いたけどっ」
「ビアンカ様……」
「畑仕事してて、駆けつけるの遅れて悪かったわ。妙に綺麗な子がご機嫌で戻ってきたけど、院長とアントワーヌ様が叱っとくって……大丈夫? 酷いこと言われなかった?」
「あ、えっと……」

 あれだけ責められたので「酷いことを言われた」を否定するほど、私は聖人君子ではない。
 けれど、ラウルさんだけじゃなくビアンカ様まで心配してくれたのに――私と現世の私(イザベル)は、嬉しくて頬を緩ませた。

(カナさん、ここにいればもう大丈夫ね)
(うん、大丈夫よ)

 そう心の声を交わして、私達は手に入れた居場所の為、仰々しい呼び名についてはラウルさんの言う通り、観念することにした。



 あの日――修道院で、幼いながらも完璧な聖女と出会ってからアルスは変わった。
 今までは、勉強などは真面目だったが周囲を拒むところがあった。けれど、イザベルに悩みを相談して救われたことで彼は周りに歩み寄るようになった。
 教会としては、次期教皇の変化を喜んだが――その教育の一環として、関わっていた一部の面々からは戸惑われた。

「……どうしたんだ、お前?」
「偉そうにしなくなったのは、いいですけど」
「頭でも打ったのか?」

 本人に歯に衣着せぬ質問をしたのは、アルスが家庭教師をしている三人の子供だった。
 直球な物言いに、昔ならムッとしただろうが――今のアルスは、違う。むしろ微笑みすら浮かべて、イザベルと同じ年くらいの男の子達に話しかけた。

「私は、聖女に救われたのです」
「……聖女?」
「次期教皇より、偉いんですか?」
「何だ、女に負けたのか」
「身分の上下や、勝ち負けとは……いえ、でも確かに貴方達の言う通り、私は負けたんでしょうね」

 負けたと口にしつつ、晴れやかな表情をしているアルスに、男の子達は顔を見合わせた。そして、三人を代表するように金髪の男の子が尋ねてきた。

「その聖女って言うのは、どんな奴なんだ?」 
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