人見知りな私と悪役令嬢がフェードアウトしたら

質問攻めから見えたもの

「何故……?」
「心が軽くなったと、感じたのですよね?」
「あ、ああ」
「何故でしょう?」
「……今まで、重かったものがあった、から」
「何故、重かったんでしょう?」
「……解らない。それに、本当に辛くなどない」
「では何故、重いのでしょう?」
「……うーん」

 質問返しに続いて、私はエドガーに質問攻めをした。やがてエドガーは言葉に詰まり、考え込んでしまった。
 ……以前、前世の私(加奈)はネットでとある記事をみかけた。
 昔、某アニメでちょい役なのにかなり存在感のあるキャラがいた。何かと質問攻めをするその子のように、心の中で浮かぶ不安や疑問について問いかけることで、それはやがて行き詰まる。そして結果として、ストレスが激減するというものだった。
 ただ、この療法は「自分自身の心に対してのみ行うように」「絶対に他人にやらないように」と書かれていた。ネガティブ思考との向き合いになるので、他人から言われると確実に人間関係が悪くなると。

(とは言え、この子は今のままだと向き合う前に、投げ出しちゃいそうだし……まあ、人間関係が悪くなるのはむしろドンと来いだし)

 そう割り切っているからこそ、私は遠慮せずに質問攻めをしている。クッキーの話に食いついた時も感じたが、エドガーは自覚はなかったようだが『何か』を抱えているらしい。

「あ」

 黙ったので待っていると、エドガーが何かに気づいたように声を上げた。そして私の視線の先で、エドガーが口を開いた。

「俺がお前のところに来たのは、俺が強いからだ」
「何故、私に会いに来ることと強さが関係あるのでしょう?」
「悩みを話すことは、己の弱さを見せることだからだ。俺の学友達に、そんなことをさせる訳にはいかない……だが」

 そこで一旦、言葉を切ってエドガーは言葉を続けた。

「俺は、騎士団総長になる男だ。だからこそ、強くあることに迷いはなかったが……そのことに、少し疲れていたみたいだ」
「……それなら、この幸せクッキーの出番ですね」

 そう話を締め括ったエドガーに、私はクッキーの乗った皿を差し出して言った。

(別に犯罪とか、死に至ることじゃなかったし……それなら、別に止めることじゃないわね。たとえ好きでも、しんどいことってあるし。まあ、このクッキーが効くのなら少しでも気晴らしにすれば良いわ。次回以降は、有料だけど)

 そう、理由を知るという目的は果たせた。それをどうするかに対して、第三者である私は口を出すつもりなど全くない。
 唯一心配なのは肥満だが、騎士を目指しているのなら体を鍛えてると思うので大丈夫だろう。そう結論付けた私の皿から、エドガーは笑ってクッキーを口に運んだ。

「そうだな……感謝するぞ、聖女!」

 そしてお礼を言ったエドガーに、私は「怒らないとか、心広いな」と内心、感心するのだった。
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