人見知りな私と悪役令嬢がフェードアウトしたら
不自然さはない、筈
どうしよう、説得力があり過ぎる。現世父も暴風雨も脳筋も、そしてケイン(あだなはまだない)も顔は良いけど中身が酷い。
(……いや、大丈夫。現世の私とか、アントワーヌ様達やラウルさんとか。見た目も性格も良い人も、たくさんいる)
そう己に言い聞かせたところで、私はふとあることに引っかかった。
(普段は、口にしてないってことは……納得は出来ていないとしても、自分の発言のまずさは解ってるってこと?)
だが、そうなるとその前の発言との矛盾が出る。
単なる馬鹿な子供だと思ったが――まずいと解っているのなら、どうして初対面のクロエ様や私に、わざわざそんなことを言ったのか。
……しばしの後、その答えに思い至ると、私はにっこりとケイン様に笑ってみせた。
「どうして私が、アルス様達の話をお聞き出来るのかという質問でしたね?」
「……ええ」
「それは、人と話すことで思いがけない発見があるからです……それは、ケイン様も同じでしょう?」
「えっ?」
「『わざと』酷いことを言って、私達の反応を見られて……それで? 少しは、参考になりましたでしょうか?」
「っ!?」
「でも、たとえ得るものがあったとしても、自分を『わざと』悪く見せるのはやめた方が良いですよ?」
にこにこ、にこにこ。
笑顔でそう言うと、ケインはしばし見開いた黒い瞳で、私を見て――次いで、その目を据わらせて睨みつけてきた。
「わざとわざとって、聖女様が僕の何を知っているんですか?」
その反応を見て私は先程、思いついた答えが正しかったことに内心、ホッとした。
こちらの反応を見ようとしたのが、まず一つ。そして、もう一つは。
(馬鹿ではないけど、それ以上に……この子、自分が『良く』思われるのが、嫌なんだ)
とりあえず、相手のこだわりと言うか引っかかりは理解した。
(私みたいな転生者って可能性は大分、低くなったかな? 人生二度目なら、それくらいの処世術はありそうだし……まあ、前世からのトラウマかもしれないけど)
とは言え、私は別にそれらのことについて触れるつもりはない。これ以上、相手と関わる気がないからだ。それ故、私は暴風雨や脳筋の時のように、下手に刺激せずにやんわり受け流すことにした。
「何も?」
「えっ?」
「強いて言えば、一般論……いえ。『私』が悪手だと感じましたので、お止めしました」
まあ、注意くらいは、初対面でもするでしょう? もっとも、それでお節介だと思われて嫌われようが、私は痛くも痒くもないけどね。
そう思いつつ、ケイン様の返事を待っていると。
「その発想は、ありませんでした……大変、失礼しました。完敗です」
「…………えっ?」
そう言われ、深々と頭を下げられたのに今度は私が目を見張る番だった。
そしてケイン様は、そんな私に更に予想外のことを言ってきた。
「確かにアルス達の言う通り、聡明で謙虚な方ですね……今からでも、遅くありません。還俗し、侯爵家令嬢としてユリウス殿下の婚約者となりませんか?」
(……いや、大丈夫。現世の私とか、アントワーヌ様達やラウルさんとか。見た目も性格も良い人も、たくさんいる)
そう己に言い聞かせたところで、私はふとあることに引っかかった。
(普段は、口にしてないってことは……納得は出来ていないとしても、自分の発言のまずさは解ってるってこと?)
だが、そうなるとその前の発言との矛盾が出る。
単なる馬鹿な子供だと思ったが――まずいと解っているのなら、どうして初対面のクロエ様や私に、わざわざそんなことを言ったのか。
……しばしの後、その答えに思い至ると、私はにっこりとケイン様に笑ってみせた。
「どうして私が、アルス様達の話をお聞き出来るのかという質問でしたね?」
「……ええ」
「それは、人と話すことで思いがけない発見があるからです……それは、ケイン様も同じでしょう?」
「えっ?」
「『わざと』酷いことを言って、私達の反応を見られて……それで? 少しは、参考になりましたでしょうか?」
「っ!?」
「でも、たとえ得るものがあったとしても、自分を『わざと』悪く見せるのはやめた方が良いですよ?」
にこにこ、にこにこ。
笑顔でそう言うと、ケインはしばし見開いた黒い瞳で、私を見て――次いで、その目を据わらせて睨みつけてきた。
「わざとわざとって、聖女様が僕の何を知っているんですか?」
その反応を見て私は先程、思いついた答えが正しかったことに内心、ホッとした。
こちらの反応を見ようとしたのが、まず一つ。そして、もう一つは。
(馬鹿ではないけど、それ以上に……この子、自分が『良く』思われるのが、嫌なんだ)
とりあえず、相手のこだわりと言うか引っかかりは理解した。
(私みたいな転生者って可能性は大分、低くなったかな? 人生二度目なら、それくらいの処世術はありそうだし……まあ、前世からのトラウマかもしれないけど)
とは言え、私は別にそれらのことについて触れるつもりはない。これ以上、相手と関わる気がないからだ。それ故、私は暴風雨や脳筋の時のように、下手に刺激せずにやんわり受け流すことにした。
「何も?」
「えっ?」
「強いて言えば、一般論……いえ。『私』が悪手だと感じましたので、お止めしました」
まあ、注意くらいは、初対面でもするでしょう? もっとも、それでお節介だと思われて嫌われようが、私は痛くも痒くもないけどね。
そう思いつつ、ケイン様の返事を待っていると。
「その発想は、ありませんでした……大変、失礼しました。完敗です」
「…………えっ?」
そう言われ、深々と頭を下げられたのに今度は私が目を見張る番だった。
そしてケイン様は、そんな私に更に予想外のことを言ってきた。
「確かにアルス達の言う通り、聡明で謙虚な方ですね……今からでも、遅くありません。還俗し、侯爵家令嬢としてユリウス殿下の婚約者となりませんか?」