人見知りな私と悪役令嬢がフェードアウトしたら
そして、寄り添い部屋の今
最初は、平民の奥様方が――次第に妊婦だけではなく、主婦が愚痴をこぼしに来るようになり。
次いでやってくるようになったのは、貴族の奥方や令嬢だった。以前、アントワーヌ様達から聞いたように、貴族の女性の嗜みとして修道院に支援や慰問の為に来る。そして、その合間に寄り添い部屋に来て話をしていくのだ。
「義理の母が、私の息子を甘やかして……おかげで、こちらが叱り役になってしまうの」
「まあ……」
「自分ばかり良い思いをして! これでは、私ばかりに嫌われてしまうわ!?」
「そんな……叱るのは、奥様の優しさからですのにね?」
「……あら、解ってくれる?」
「ええ」
奥方の場合は、前世で言うところの嫁姑関係や子育てについての話が多い。
そして令嬢はと言うと、やはり恋愛ネタが多かったが――乙女ゲームの世界だが、恋愛結婚は少ない。身分差もあるので親が決めた、自分の爵位に合った相手と婚約の末、結婚するのが一般的だ。政略結婚とまで言われないが、家同士の結婚というイメージである。
(まあ、恋愛結婚が一般的なら、そもそも身分差に悩む乙女ゲームの世界観が成立しないか)
そんな令嬢達からは婚約者に対する愚痴や、逆に婚約者についての惚気を聞かされる。
「そりゃあ、私は七歳年下だから色々、物足りないのは解るけど……他に好きな相手がいるんなら、身を退いた方が良いのかしら」
「そんな……年上だと言うのなら、そういう気遣いはむしろ殿方がすべきでは?」
「……確かに」
「あ、失礼しました」
「いえ、いいのよ。その通りだから……でも、一人だと不思議と思いつかなかったわ。確かに、こうして誰かに話してみることは必要ね……親にもちょっと、話してみるわ」
「……はい!」
今日の令嬢は、愚痴だった。そして私のツッコミで冷静になれたのか、お礼の言葉を口にして寄り添い部屋を後にした。
愚痴聞き改め寄り添いを始めてから、二か月ほど経過している。
最初の頃は閑古鳥が鳴くことも想定していたが、やってみたら人が途切れることなくやって来て、内職どころではない。逆に時間を延ばすか、思い切って他の者にも頼もうかとも思っている。
(研修はしないとだから、すぐにではないけど……あと、場所も?)
私がそんなことを考えていたら、壁の向こうからチリンと呼び鈴を鳴らす音がした。
「お待たせ致しました。本日は、いかがなさいましたか?」
『……イザベル様、わたしです』
『エマ? いらっしゃい』
呼びかけに、返ってきたのはすっかり聞き慣れた声と日本語で――それに対して、私も日本語で問いかけた。
次いでやってくるようになったのは、貴族の奥方や令嬢だった。以前、アントワーヌ様達から聞いたように、貴族の女性の嗜みとして修道院に支援や慰問の為に来る。そして、その合間に寄り添い部屋に来て話をしていくのだ。
「義理の母が、私の息子を甘やかして……おかげで、こちらが叱り役になってしまうの」
「まあ……」
「自分ばかり良い思いをして! これでは、私ばかりに嫌われてしまうわ!?」
「そんな……叱るのは、奥様の優しさからですのにね?」
「……あら、解ってくれる?」
「ええ」
奥方の場合は、前世で言うところの嫁姑関係や子育てについての話が多い。
そして令嬢はと言うと、やはり恋愛ネタが多かったが――乙女ゲームの世界だが、恋愛結婚は少ない。身分差もあるので親が決めた、自分の爵位に合った相手と婚約の末、結婚するのが一般的だ。政略結婚とまで言われないが、家同士の結婚というイメージである。
(まあ、恋愛結婚が一般的なら、そもそも身分差に悩む乙女ゲームの世界観が成立しないか)
そんな令嬢達からは婚約者に対する愚痴や、逆に婚約者についての惚気を聞かされる。
「そりゃあ、私は七歳年下だから色々、物足りないのは解るけど……他に好きな相手がいるんなら、身を退いた方が良いのかしら」
「そんな……年上だと言うのなら、そういう気遣いはむしろ殿方がすべきでは?」
「……確かに」
「あ、失礼しました」
「いえ、いいのよ。その通りだから……でも、一人だと不思議と思いつかなかったわ。確かに、こうして誰かに話してみることは必要ね……親にもちょっと、話してみるわ」
「……はい!」
今日の令嬢は、愚痴だった。そして私のツッコミで冷静になれたのか、お礼の言葉を口にして寄り添い部屋を後にした。
愚痴聞き改め寄り添いを始めてから、二か月ほど経過している。
最初の頃は閑古鳥が鳴くことも想定していたが、やってみたら人が途切れることなくやって来て、内職どころではない。逆に時間を延ばすか、思い切って他の者にも頼もうかとも思っている。
(研修はしないとだから、すぐにではないけど……あと、場所も?)
私がそんなことを考えていたら、壁の向こうからチリンと呼び鈴を鳴らす音がした。
「お待たせ致しました。本日は、いかがなさいましたか?」
『……イザベル様、わたしです』
『エマ? いらっしゃい』
呼びかけに、返ってきたのはすっかり聞き慣れた声と日本語で――それに対して、私も日本語で問いかけた。