人見知りな私と悪役令嬢がフェードアウトしたら
選択
ヒロイン視点
※
豪華な部屋に通されたわたしことヒロイン・エマは、同じく豪華な部屋で夕食を取ることになった。
……前世も現世も、平民なんで。ついつい、豪華を連呼してしまう。
ただ、ちょっと――いや、かなり思うところもある訳で。
連れて来られたままの格好、というのはまあ、良い。気が回らなかったとさっき父親から謝られたし、そもそも平民だと食事の度に着替えることなんてないもの。
それよりも、わたしが気になっているのは――。
(やっぱり、イザベル様いないよね……いや、まあ、さっき聞いてはいたんだけど)
そう、あの父親はわたし達母娘のいる前で、イザベル様に修道院に行くことやわたし達を優先すると言ったのだ。
結ばれてわたしっていう子供もいるけれど、母親にとっての父親は夫と言うより『ご主人様』だ。だから、母親には父親を諌めることは出来ない。
でも基本、善人だから部屋に通された後、イザベル様への申し訳なさに青ざめて恐縮していた。
「ご主人様には、逆らえないけど……どうしましょう。私達のせいで、お嬢様が追い出されてしまうなんて」
「母さん……」
『とぅるらぶ』(『True Love~幸福を探して~』の略)では、イザベル様の退場はなかったけど、父親と彼女との不和は『設定として』知っていた。
……いや、知っていたつもりだったけど、実は何も解ってなかったと思い知った。
(言い出したのは、イザベル様だけど……六歳の子が家を出るって言って、あんなにあっさり許すの? いくら、亡くなった母親を偲ぶ為って言ったって)
母娘が住んでいたのは、父親の用意してくれた家で。彼がしょっちゅう来てくれるからこそ、平民でも裕福な生活が出来ていた。
そのことは、感謝しているが――反面、その間イザベル様はほったらかしで。憎むまでいかなくても、無関心なのは母親の言う通り『わたし達のせい』なのだ。
「父さ……お父さま?」
今までは『父さん』と呼んでいたが、侯爵家に引き取られた今ではマズいだろう。
だから、とイザベル様の真似をして呼んでみると、父親は嬉しそうに笑って言った。
「何だい、エマ」
こんな脳内お花畑な父親と離れることは、イザベル様にとっては幸いだろう。
……ただそんな父親だからこそ、今は良いがわたし達母娘に飽きたら、簡単に捨てると思う。そう、利用価値のない平民のままでいたら。
「勉強、させて下さい……お父さまの娘として、相応しくなりたいです」
だからわたしは、立派な貴族令嬢になることにした。
ゲームだと、六歳で引き取られてはいたけれど――本格的に令嬢らしさを勉強するのは、魔法学園に入学してからだ。それは、ゲームでイザベル様と対決する為だろう。
だけど、イザベル様とユリウス様の婚約は今から二年後、八歳の時で。
イザベル様が退場した今、侯爵家の娘は自分だけになるが――平民のままでは、候補にすらなれないだろう。でも頑張って勉強し、ユリウス様の婚約者になれたら父親にも認められると思う。
(それに、わたしが立派な令嬢になったら……慈善活動として、イザベル様の行った修道院に援助出来る! つまりは課金!)
心の中で握った拳を振り上げながら、わたしはヒロインらしい長いまつ毛を伏せて父親にお願いした。
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豪華な部屋に通されたわたしことヒロイン・エマは、同じく豪華な部屋で夕食を取ることになった。
……前世も現世も、平民なんで。ついつい、豪華を連呼してしまう。
ただ、ちょっと――いや、かなり思うところもある訳で。
連れて来られたままの格好、というのはまあ、良い。気が回らなかったとさっき父親から謝られたし、そもそも平民だと食事の度に着替えることなんてないもの。
それよりも、わたしが気になっているのは――。
(やっぱり、イザベル様いないよね……いや、まあ、さっき聞いてはいたんだけど)
そう、あの父親はわたし達母娘のいる前で、イザベル様に修道院に行くことやわたし達を優先すると言ったのだ。
結ばれてわたしっていう子供もいるけれど、母親にとっての父親は夫と言うより『ご主人様』だ。だから、母親には父親を諌めることは出来ない。
でも基本、善人だから部屋に通された後、イザベル様への申し訳なさに青ざめて恐縮していた。
「ご主人様には、逆らえないけど……どうしましょう。私達のせいで、お嬢様が追い出されてしまうなんて」
「母さん……」
『とぅるらぶ』(『True Love~幸福を探して~』の略)では、イザベル様の退場はなかったけど、父親と彼女との不和は『設定として』知っていた。
……いや、知っていたつもりだったけど、実は何も解ってなかったと思い知った。
(言い出したのは、イザベル様だけど……六歳の子が家を出るって言って、あんなにあっさり許すの? いくら、亡くなった母親を偲ぶ為って言ったって)
母娘が住んでいたのは、父親の用意してくれた家で。彼がしょっちゅう来てくれるからこそ、平民でも裕福な生活が出来ていた。
そのことは、感謝しているが――反面、その間イザベル様はほったらかしで。憎むまでいかなくても、無関心なのは母親の言う通り『わたし達のせい』なのだ。
「父さ……お父さま?」
今までは『父さん』と呼んでいたが、侯爵家に引き取られた今ではマズいだろう。
だから、とイザベル様の真似をして呼んでみると、父親は嬉しそうに笑って言った。
「何だい、エマ」
こんな脳内お花畑な父親と離れることは、イザベル様にとっては幸いだろう。
……ただそんな父親だからこそ、今は良いがわたし達母娘に飽きたら、簡単に捨てると思う。そう、利用価値のない平民のままでいたら。
「勉強、させて下さい……お父さまの娘として、相応しくなりたいです」
だからわたしは、立派な貴族令嬢になることにした。
ゲームだと、六歳で引き取られてはいたけれど――本格的に令嬢らしさを勉強するのは、魔法学園に入学してからだ。それは、ゲームでイザベル様と対決する為だろう。
だけど、イザベル様とユリウス様の婚約は今から二年後、八歳の時で。
イザベル様が退場した今、侯爵家の娘は自分だけになるが――平民のままでは、候補にすらなれないだろう。でも頑張って勉強し、ユリウス様の婚約者になれたら父親にも認められると思う。
(それに、わたしが立派な令嬢になったら……慈善活動として、イザベル様の行った修道院に援助出来る! つまりは課金!)
心の中で握った拳を振り上げながら、わたしはヒロインらしい長いまつ毛を伏せて父親にお願いした。