精霊たちのメサイア
10.精霊の森
10.精霊の森
あんなに緊張していたのに、食事をしている間に嘘の様に緊張はなくなっていた。この旅行1番の山を乗り越えたと思っていたけど、山はもう一つ待ち受けていた。
「恥ずか死ぬ……」
グッタリと横になったベッドの上で枕に顔を沈めた。
お父様たちが住んでる屋敷では、使用人は必要最低限しかいないからお風呂は一人で入ってたけど、ここでは違ってた。何度断っても受け入れてもらえなくて、甲斐甲斐しくお世話をされてしまった。着替えの時にサラに身体は見られるけど、下着は着てる。全裸を見られる事はない。毎回お風呂のお世話もされるのかと思うと気が重い。
「何かあったのか?」
「アルファ!?」
突然声をかけられて驚いて身体を起こした。
「そろそろどうかと思ったんだが……」
「そろそろ?」
「精霊たちに歌をきかせてやってくれと言っただろ」
そういうばそうだった。すっかり忘れていた。
「改めるか?」
「ううん、大丈夫」
精霊たちには沢山励ましてもらったし、いつも気にかけてもらってる。少しでも早く力になりたい。
「でも夜遅いから、あんまり大きな声では歌えないけど……」
「それなら心配はいらない。 森へ案内する」
「森?」
「精霊の森だ。 多くの精霊たちが集まる場所だ」
「っ_ぅえっ!?」
「色気のない奴だな」
「悪かったわね」
急にお姫様抱っこをされて変な声が出てしまった。ジロリと睨むと、アルファは楽しそうに笑った。
「十分元気は残ってる様だな」
言い終わるか終わらないかで突然景色が変わった。
人工的な光の中にいた筈が、柔らかな光に包まれる空間にいた。
(夜……だよね?)
「精霊たちの光だ。 普段は見つからない様夜は光を抑えるが、今はレイラが怖くない様に皆が最大限に光を灯している」
「ありがとう」
精霊たちにお礼を言うと、みんながそばに寄ってきた。
(あれ?)
光ながらも少し黒ずんでいる精霊に手を伸ばすと、その子は手のひらに座り込んだ。
「精神と肉体の調和が崩れ始めた精霊だ。 崩壊が進み全身を黒で覆われたら消滅する」
「え!? 死んじゃうって事!?」
「そうだ」
アルファは私の身体をおろした。そのまま椅子に座らされた。
「これ……」
真っ白なピアノ。それはとても美しくて、触れずにはいられなかった。一音鳴らすと、澄んだ音が心にも響く様だった。
「このピアノには私の力が込められている。 普通のピアノと違ってレイラの声と共鳴し、力をより強くする」
手のひらに座っている精霊をピアノの上に座らせた。
ピアノを弾こうとして手を止めた。
「どうした?」
「楽譜ないから、途中で分からなくなっちゃうかもしれないんだけど……それでもいい?」
何も言わずにアルファが私のおでこにおでこをくっつけた。いつも突然で驚かされる。目を閉じたままなにも言わないアルファの顔を間近で観察。毛穴なんて存在してないみたい。花?の様ないい香りがする。こんなに顔を近付けられているのに意識しないのは精霊だからだろうか?
「よし、これで問題ない」
「え?」
「レイラに付けられているベアトリス神の加護を通じて、楽譜が脳内に浮かぶ様にした」
「え!? そんな事できるの!? アルファって凄いんだね!」
「まぁな、と言いたいが、私一人の力では出来なかった。 ベアトリス神の力が働いているからできた事だ」
それでも十分凄いんだけど……。
頭の中で弾きたい曲を思い浮かべると本当に楽譜が浮かんできた。何この凄い能力!とっても便利!
ピアノを弾き始めると、精霊たちはユラユラと動き始めた。アルファはそばに座り込んだ。視線を感じるけど気にしない。
歌が始まると、精霊たちは更に近付いてきた。ピアノに座る子や私の肩に座る子。近くに来た子たちの殆どが身体の一部が黒ずんでいる。
私が選んだ曲は翼をください。この曲は中学の合唱コンクールでクラスで歌った曲。私は仕事ばかりで参加はさせてもらえなかった。たまに学校へ行けた時に皆んなが歌っているのを聴いているだけだった。ゆらゆら揺れ踊っている精霊たちを見て、皆んなで歌っている様な、そんな気持ちになった。涙で視界がぼやけても、楽譜が頭の中にあるおかげで見えなくなる事はない。
あぁ……こんなに楽しくて、幸せな気持ちで歌を歌うのはいつぶりだろう。私でも役に立てる。その事が嬉しくてたまらなかった。
精霊たちの身体から黒い色がなくなっていく。そして光だけに覆われた精霊たちはみんな私の頬やおでこ、頭へキスをしてくれる。キスの雨が降り注いでるみたい。
美しい光景と幸せな空間。まるで夢の中にいる様だった。
あんなに緊張していたのに、食事をしている間に嘘の様に緊張はなくなっていた。この旅行1番の山を乗り越えたと思っていたけど、山はもう一つ待ち受けていた。
「恥ずか死ぬ……」
グッタリと横になったベッドの上で枕に顔を沈めた。
お父様たちが住んでる屋敷では、使用人は必要最低限しかいないからお風呂は一人で入ってたけど、ここでは違ってた。何度断っても受け入れてもらえなくて、甲斐甲斐しくお世話をされてしまった。着替えの時にサラに身体は見られるけど、下着は着てる。全裸を見られる事はない。毎回お風呂のお世話もされるのかと思うと気が重い。
「何かあったのか?」
「アルファ!?」
突然声をかけられて驚いて身体を起こした。
「そろそろどうかと思ったんだが……」
「そろそろ?」
「精霊たちに歌をきかせてやってくれと言っただろ」
そういうばそうだった。すっかり忘れていた。
「改めるか?」
「ううん、大丈夫」
精霊たちには沢山励ましてもらったし、いつも気にかけてもらってる。少しでも早く力になりたい。
「でも夜遅いから、あんまり大きな声では歌えないけど……」
「それなら心配はいらない。 森へ案内する」
「森?」
「精霊の森だ。 多くの精霊たちが集まる場所だ」
「っ_ぅえっ!?」
「色気のない奴だな」
「悪かったわね」
急にお姫様抱っこをされて変な声が出てしまった。ジロリと睨むと、アルファは楽しそうに笑った。
「十分元気は残ってる様だな」
言い終わるか終わらないかで突然景色が変わった。
人工的な光の中にいた筈が、柔らかな光に包まれる空間にいた。
(夜……だよね?)
「精霊たちの光だ。 普段は見つからない様夜は光を抑えるが、今はレイラが怖くない様に皆が最大限に光を灯している」
「ありがとう」
精霊たちにお礼を言うと、みんながそばに寄ってきた。
(あれ?)
光ながらも少し黒ずんでいる精霊に手を伸ばすと、その子は手のひらに座り込んだ。
「精神と肉体の調和が崩れ始めた精霊だ。 崩壊が進み全身を黒で覆われたら消滅する」
「え!? 死んじゃうって事!?」
「そうだ」
アルファは私の身体をおろした。そのまま椅子に座らされた。
「これ……」
真っ白なピアノ。それはとても美しくて、触れずにはいられなかった。一音鳴らすと、澄んだ音が心にも響く様だった。
「このピアノには私の力が込められている。 普通のピアノと違ってレイラの声と共鳴し、力をより強くする」
手のひらに座っている精霊をピアノの上に座らせた。
ピアノを弾こうとして手を止めた。
「どうした?」
「楽譜ないから、途中で分からなくなっちゃうかもしれないんだけど……それでもいい?」
何も言わずにアルファが私のおでこにおでこをくっつけた。いつも突然で驚かされる。目を閉じたままなにも言わないアルファの顔を間近で観察。毛穴なんて存在してないみたい。花?の様ないい香りがする。こんなに顔を近付けられているのに意識しないのは精霊だからだろうか?
「よし、これで問題ない」
「え?」
「レイラに付けられているベアトリス神の加護を通じて、楽譜が脳内に浮かぶ様にした」
「え!? そんな事できるの!? アルファって凄いんだね!」
「まぁな、と言いたいが、私一人の力では出来なかった。 ベアトリス神の力が働いているからできた事だ」
それでも十分凄いんだけど……。
頭の中で弾きたい曲を思い浮かべると本当に楽譜が浮かんできた。何この凄い能力!とっても便利!
ピアノを弾き始めると、精霊たちはユラユラと動き始めた。アルファはそばに座り込んだ。視線を感じるけど気にしない。
歌が始まると、精霊たちは更に近付いてきた。ピアノに座る子や私の肩に座る子。近くに来た子たちの殆どが身体の一部が黒ずんでいる。
私が選んだ曲は翼をください。この曲は中学の合唱コンクールでクラスで歌った曲。私は仕事ばかりで参加はさせてもらえなかった。たまに学校へ行けた時に皆んなが歌っているのを聴いているだけだった。ゆらゆら揺れ踊っている精霊たちを見て、皆んなで歌っている様な、そんな気持ちになった。涙で視界がぼやけても、楽譜が頭の中にあるおかげで見えなくなる事はない。
あぁ……こんなに楽しくて、幸せな気持ちで歌を歌うのはいつぶりだろう。私でも役に立てる。その事が嬉しくてたまらなかった。
精霊たちの身体から黒い色がなくなっていく。そして光だけに覆われた精霊たちはみんな私の頬やおでこ、頭へキスをしてくれる。キスの雨が降り注いでるみたい。
美しい光景と幸せな空間。まるで夢の中にいる様だった。