精霊たちのメサイア
14.デビュタント
14.デビュタント
とうとうこの日がやってきた。口から心臓が出てきそう。
ドレスを着る事なんてない世界で生きてきて、最近ようやくドレスを着るのも慣れてきた。レディーの嗜みとして、音楽や教養、ダンス、刺繍ありとあらゆる事に挑戦してきた。ちゃんとできるかは別として。特に刺繍の才能なんて壊滅的で先生は授業のたびに落ち込んで帰って行った。ダンスも上手とは言えない。音楽は昔から慣れ親しんだものだったから何の問題もなく、教養に関してはある程度覚えたとは思うけど自信はない。新しく始めた事の中では乗馬が一番うまくいっているだろう。けど、その乗馬が今回のミッションに役立つのか?と聞かれればノーだ。
「緊張してる?」
「……してる」
「今回は顔を知ってもらう程度に思っていればいいよ」
「テオはもう慣れっこ?」
「俺はもう慣れたかな。 慣れたからといって好きではないけど」
ちょっと意外だった。勝手なイメージだけど貴族の人ってみんな夜会だのお茶会だのイベントが好きなものだと思ってた。
「どうしても参加しなければいけない時か、ジュリアの付き添いが必要な時はしょうがないから参加するけどね」
ジュリア様はテオの婚約者で、アガルタ王国の第四王女殿下。私はまだ会った事ないからどんな人かは分からないけど、テオとジュリア王女殿下は仲が良さそうだ。
会場に入場するや否や、ビックリするくらい大きな声で名前を呼ばれた。恥ずかしさのあまり俯いてしまいそうだったけど、なんとかグッと堪えた。エスコートしてくれているテオは慣れた様子でスタスタと足を進めていく。
国王陛下のお話が終わると、会場内に音楽が流れ始めた。
「私と一曲踊っていただけますか?」
テオが差し出した掌に自分の手を重ねた。練習の時よりも10倍……いや、100倍緊張する。煌びやかな照明に目が眩みそうになる。
「だいぶ踊れる様になったよね」
「3回に1回はまだ足踏んじゃうけど……今日がその1回じゃないことを願うよ」
「レイラに踏まれたくらいなんともないから、気軽に踊ってほしい。 考え過ぎると逆に失敗するよ」
テオの優しさに思わず笑ってしまった。
「なんだよ」
「ヴァレリー家の人たちはみんな優しい人ばかりだなと思って」
「レイラも我が家の一員、だろ?」
お父様、お母様、屋敷の人たち……みんな私を快く迎えてくれた。未だに日本にいた頃の夢を見てうなされる事がある。でも、みんなのあたたかな心に触れると、恐怖も薄れてしまう。精霊たちも私の心の癒しだ。
「テオ、ありがとう」
笑うとテオも微笑んだ。
なんとか足を踏まずにダンスを終え端に避けると、テオが声をかけられた。
女性一人に男性三人。女性と一人の男性は落ち着いたブロンドで顔の作りも似てる気がする。一人はガッチリとしていて背の高い男性、そしてもう一人の男性は眼鏡をかけていてすらっとした体型の知的な人。
「レイラ、紹介するよ」
そう言って紹介してくれたブロンドの男性はトゥーサン殿下、ブロンドのテオと親しげな女性はジュリア殿下、体格のいい男性はパトリック様、知的な男性はジュール様と言うらしい。みんな幼い頃からの友人だそうだ。
「初めまして。 レイラ・ヴァレリーと申します」
先生に習った事を思い出しながら、カーテシーをした。
「テオからずっとお話しを聞いておりましたの! お会いしたかったですわ!」
キラキラの笑顔を向けられ、両手でぎゅっと手を握られた。
「艶やかな黒髪に黒真珠の様に美しい瞳ですわね!」
「あ、ありがとうございます。 ジュリア殿下の瞳も澄んだ青空の様でとっても綺麗ですね」
褒められる事も恥ずかしいけど、こんな風に誰かを褒める事もあまりないから恥ずかしい。顔が熱い。
「ふふっ、レイラとは仲良くなれそうですわ! 私のことはジュリアと呼んでくださいませ!」
「あ、えと……ジュリア様」
「はいっ」
満面の笑みをむけられてどうしたものかと思っていたら、トゥーサン殿下が間に入ってくれた。
「ジュリア、レイラ嬢が困っているだろう」
「だってお兄様! やっとお会いできたんですもの」
「そうだな。 私もレイラ嬢の作るドルチェの実ジャムの大ファンで、会ってみたかった」
え!?
バッとテオの顔を見ると誤魔化す様ににっこりと笑われた。
「私もあれにはハマってしまいました。 よかったら木の実のまま頂いてみたいのですが、ダメでしょうか?」
「あら! ジュールだけずるいですわ! わたくしもそのまま頂いてみたいですわ!」
「お! 俺はまたアイスに混ぜてるやつが食べたい!」
みんなドルチェの実が大好きだから色々作ってはいたけど、ヴァレリー家の人以外も食べてたなんて……それも王族が……。
「レイラすまない……君が作ってくれたドルチェの実のジャムをジュリアにあげたらトゥーサンに見つかってしまって……それで広まってしまった」
「き、気にしないで! 喜んでもらえたならいいの! また実が手に入ったらお菓子やジャムをご用意しますね」
入手困難なあの実をどうやって集めてるのか聞かれたらなんて言えばいいんだろう。そんな事を考えていたら、みなさんは色々な方に声をかけられ始めたので話は自然と中断された。テオからは誘われたら踊るといいと言われたけど、身内以外の人と踊る自信がないので、そそくさと隠れる様にテラスへ向かった。
とうとうこの日がやってきた。口から心臓が出てきそう。
ドレスを着る事なんてない世界で生きてきて、最近ようやくドレスを着るのも慣れてきた。レディーの嗜みとして、音楽や教養、ダンス、刺繍ありとあらゆる事に挑戦してきた。ちゃんとできるかは別として。特に刺繍の才能なんて壊滅的で先生は授業のたびに落ち込んで帰って行った。ダンスも上手とは言えない。音楽は昔から慣れ親しんだものだったから何の問題もなく、教養に関してはある程度覚えたとは思うけど自信はない。新しく始めた事の中では乗馬が一番うまくいっているだろう。けど、その乗馬が今回のミッションに役立つのか?と聞かれればノーだ。
「緊張してる?」
「……してる」
「今回は顔を知ってもらう程度に思っていればいいよ」
「テオはもう慣れっこ?」
「俺はもう慣れたかな。 慣れたからといって好きではないけど」
ちょっと意外だった。勝手なイメージだけど貴族の人ってみんな夜会だのお茶会だのイベントが好きなものだと思ってた。
「どうしても参加しなければいけない時か、ジュリアの付き添いが必要な時はしょうがないから参加するけどね」
ジュリア様はテオの婚約者で、アガルタ王国の第四王女殿下。私はまだ会った事ないからどんな人かは分からないけど、テオとジュリア王女殿下は仲が良さそうだ。
会場に入場するや否や、ビックリするくらい大きな声で名前を呼ばれた。恥ずかしさのあまり俯いてしまいそうだったけど、なんとかグッと堪えた。エスコートしてくれているテオは慣れた様子でスタスタと足を進めていく。
国王陛下のお話が終わると、会場内に音楽が流れ始めた。
「私と一曲踊っていただけますか?」
テオが差し出した掌に自分の手を重ねた。練習の時よりも10倍……いや、100倍緊張する。煌びやかな照明に目が眩みそうになる。
「だいぶ踊れる様になったよね」
「3回に1回はまだ足踏んじゃうけど……今日がその1回じゃないことを願うよ」
「レイラに踏まれたくらいなんともないから、気軽に踊ってほしい。 考え過ぎると逆に失敗するよ」
テオの優しさに思わず笑ってしまった。
「なんだよ」
「ヴァレリー家の人たちはみんな優しい人ばかりだなと思って」
「レイラも我が家の一員、だろ?」
お父様、お母様、屋敷の人たち……みんな私を快く迎えてくれた。未だに日本にいた頃の夢を見てうなされる事がある。でも、みんなのあたたかな心に触れると、恐怖も薄れてしまう。精霊たちも私の心の癒しだ。
「テオ、ありがとう」
笑うとテオも微笑んだ。
なんとか足を踏まずにダンスを終え端に避けると、テオが声をかけられた。
女性一人に男性三人。女性と一人の男性は落ち着いたブロンドで顔の作りも似てる気がする。一人はガッチリとしていて背の高い男性、そしてもう一人の男性は眼鏡をかけていてすらっとした体型の知的な人。
「レイラ、紹介するよ」
そう言って紹介してくれたブロンドの男性はトゥーサン殿下、ブロンドのテオと親しげな女性はジュリア殿下、体格のいい男性はパトリック様、知的な男性はジュール様と言うらしい。みんな幼い頃からの友人だそうだ。
「初めまして。 レイラ・ヴァレリーと申します」
先生に習った事を思い出しながら、カーテシーをした。
「テオからずっとお話しを聞いておりましたの! お会いしたかったですわ!」
キラキラの笑顔を向けられ、両手でぎゅっと手を握られた。
「艶やかな黒髪に黒真珠の様に美しい瞳ですわね!」
「あ、ありがとうございます。 ジュリア殿下の瞳も澄んだ青空の様でとっても綺麗ですね」
褒められる事も恥ずかしいけど、こんな風に誰かを褒める事もあまりないから恥ずかしい。顔が熱い。
「ふふっ、レイラとは仲良くなれそうですわ! 私のことはジュリアと呼んでくださいませ!」
「あ、えと……ジュリア様」
「はいっ」
満面の笑みをむけられてどうしたものかと思っていたら、トゥーサン殿下が間に入ってくれた。
「ジュリア、レイラ嬢が困っているだろう」
「だってお兄様! やっとお会いできたんですもの」
「そうだな。 私もレイラ嬢の作るドルチェの実ジャムの大ファンで、会ってみたかった」
え!?
バッとテオの顔を見ると誤魔化す様ににっこりと笑われた。
「私もあれにはハマってしまいました。 よかったら木の実のまま頂いてみたいのですが、ダメでしょうか?」
「あら! ジュールだけずるいですわ! わたくしもそのまま頂いてみたいですわ!」
「お! 俺はまたアイスに混ぜてるやつが食べたい!」
みんなドルチェの実が大好きだから色々作ってはいたけど、ヴァレリー家の人以外も食べてたなんて……それも王族が……。
「レイラすまない……君が作ってくれたドルチェの実のジャムをジュリアにあげたらトゥーサンに見つかってしまって……それで広まってしまった」
「き、気にしないで! 喜んでもらえたならいいの! また実が手に入ったらお菓子やジャムをご用意しますね」
入手困難なあの実をどうやって集めてるのか聞かれたらなんて言えばいいんだろう。そんな事を考えていたら、みなさんは色々な方に声をかけられ始めたので話は自然と中断された。テオからは誘われたら踊るといいと言われたけど、身内以外の人と踊る自信がないので、そそくさと隠れる様にテラスへ向かった。