精霊たちのメサイア

15.精霊のお願い

15.精霊のお願い


テラスの隅で静かに風に当たっていると、ドレスをクイクイっと引っ張られた気がして下を向くと、羽の生えた小さな子供が私の顔を見上げていた。

中位精霊?普通に過ごしていて普通に近付いてきたのは初めて。

屈んで目を合わせると、精霊の瞳には今にも溢れそうなほど涙が溜まっていた。


「どうしたの?」

「ほんとはお願いしちゃダメなんだ。 でも、お願い……たすけて、たすけてレイラ」


とうとう涙が零れ落ちてしまった。ポケットから出したハンカチで涙を拭うも、中々止まってくれない。


「どうしてダメなの?」

「精霊からメサイアにお願いはダメって王様が言ってた。 でも、ボクじゃダメで……っ、レイラじゃないとダメなの」

「私に何をしてほしいの?」

「お願い聞いてくれるの?」


涙ぐむ大きな瞳に直視され、ちょっと焦った。


「えっと……私にできることなら……」

「ペネロープを助けて。 毒がなくならないんだ。 どんどん身体が弱くなってくんだ……もう自分で立てないんだ……ご飯も少ししか食べられなくて……」


溢れる涙を乱暴に拭う精霊を抱きしめた。

解毒ならできる。ベアトリス様が授けてくれた。

中位精霊_アルポ_に手を引かれながら、人気のないところを進んでいく。

テオに一言断りを入れようと思って会場内を見渡したけど、見つけられなかった。アルポ曰くすぐそこだからと言われたのでそんなに時間はかからないと思うけど……。

それにしてもどんどん静かになっていく……でもお城の敷地内である事は間違いない。こんなところに本当に人がいるの?

_コンコンコン!


「ペネロープ!」

「どうぞ」


部屋の中から微かに聞こえた声はとても弱々しかった。


「アルポがドアから入ってくるなんて、初めてじゃない?」


その声は泣いてしまいそうなほど穏やかで、落ち着いていた。

ベッドに腰掛けている女性は私を見ると目を見開いた。そしてすぐそばに置いていた短剣に手を伸ばす。


「ま、待って! ペネロープ! 僕が呼んだんだ!」

「アルポが? どうして……」

「レイラなら治せるんだ! また元気になれるんだ! そしたらまた一緒にお散歩したり、お菓子食べたりできるでしょ? だから、僕が呼んだんだ!」


アルポはベッドまで飛んでいくと、ペネロープさんのすぐ横に座った。ペネロープさんはまるでしょうがない子ねと言わんばかりに微笑んで、短剣から手を離した。


「は、初めまして。 レイラ……と言います。 そちらに行ってもいいでしょうか?」

「えぇ」


名字は名乗らない方がいいかもと思って、飲み込んだ。

ベッド横の椅子に座らせてもらい、ペネロープさんの顔見て息を呑んだ。こけているのは顔だけじゃない。腕や首、少し見えている鎖骨は浮かび上がり痩せ細っていた。


「私の毒は種類が分からず、医師も薬師も匙を投げた。 聖女もまた、毒はどうしようもないと私の姿を見た瞬間何処かへ行ってしまった」


え?聖女ってもっと慈悲深いものじゃないの!?ファンタジー小説に出てくる聖女様ってもっと使命感に満ちていてどうにかこうにか力になろうとするものじゃないの?ここはファンタジー小説のなかじゃないから、現実は違うのかもしれないけど、がっかりしてしまった。

私はペネロープさんの手を両手で包み込む様に握った。


「私は光属性で治癒魔法が使えます。 治癒の他に解毒もできるんです。 魔法だから毒の種類が分からなくても解毒はできると思うので、試してみてもいいでしょうか?」

「このまま何もしなくても朽ち果てる身。 お願いするわ」


目を閉じて呼吸を整えた。

_ペネロープさんの身体の中の毒がなくなりますように_

掌にほんのり熱がこもり、暫くすると治った。目を開けると、ペネロープさんは驚いた顔をしていた。


「息苦しさ、怠さが……無くなったわ」

「ペネロープから嫌な臭いがなくなった!」


アルポはペネロープさんに抱きつくと泣きじゃくった。


「なんとお礼をすればいいのか……」

「お礼だなんて! 元気になったらアルポとまた一緒にお散歩してあげて下さい。 あ! ヤバイ! もう戻らないと!」

「道、あんな__」

「大丈夫! 他の精霊に聞くから! ペネロープさん! しっかり食べて早く元気になって下さいね! それでは失礼いたします!」


しゃくり上げながら道案内をすると言いかけたアルポの言葉を遮った。慌てて部屋を出て、精霊に声をかけると沢山の精霊たちが近くまで道案内をしてくれた。

息切れ切れで会場につくと、すぐさま目が合ったテオが違和感たっぷりの笑顔を張り付けてツカツカと近付いてくる。

あれはものすごく怒ってる。絶対。

そのまま帰ることになり馬車の中では家に着くまで説教された。テオを怒らせない様に気をつけようと誓った夜だった。




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