精霊たちのメサイア
16.魔物狩り
16.魔物狩り
せっかくだから王都でゆっくりしなさいと両親に言われていたので、ヴァレリー侯爵家でのんびりすごさせてもらっている。
ジュリオは勉強の時間が終わると私のところへやってきてはピアノを弾いてとせがんでくる。私はこちらの世界の曲はまだ数えるほどしか知らないから、日本で子供達が好む様なチューリップやきらきら星などの童謡を弾いて聴かせたら、ジュリオは喜んでくれた。どうやらこの世界には子供向けの曲はあまりないみたい。カノンや月光などの大人が聴いて楽しめる曲も好きみたい。
「レイラも魔物狩りに行くの?」
「行くよ。 といっても私はお茶を飲みながら待ってるだけだけど……」
「いいなぁ……僕はまだダメだって父様に言われちゃった……」
「直ぐに大きくなって参加出来る様になるよ」
不貞腐れるジュリオにドルチェのジャムをたっぷりいれた紅茶を差し出すと、すぐに嬉しそうな顔に変わった。ジュリオは本当に可愛い。
魔物討伐は年に一度の行事らしい。15歳以上の騎士、もしくは騎士と同等の力をもっている未婚の男性が参加できる。テオは第三王子殿下_つまりはトゥーサン殿下直属のホーク騎士団所属らしいので参加するとの事。騎士なのは知ってたけど、まさか副団長とは思ってなくてビックリした。
魔物狩り当日の早朝、狩場になっているリーゼの森側の大きな屋敷に集合した。屋敷の広場では恋人だったり親しい友人や家族に安全を願って女性陣がタッセルを渡している。
「レイラからはないの?」
テオの掌にタッセルの代わりに飴が数個入った小さい瓶を置いた。
「ジュリア様からのタッセルだけで十分でしょ? 私からは疲れた時に食べるドルチェの飴をあげる」
「綺麗な色だな」
便を持ち上げ、光を通す様に飴を見るテオ。そんなテオに見惚れる令嬢がチラホラ。ジュリア様が婚約者じゃなければ言い寄られてただろう。
「お! なんだよそれ! いいな!」
「宜しければパトリック様もどうぞ」
そう言って渡すととても喜んで受け取ってくれた。
よく見るとパトリック様の剣にはいくつものタッセルが付けられていた。
「モテモテですね」
「まぁ婚約者がいないからな」
「婚約者いらっしゃらないんですか?」
「両親からも急かされてはいるんだが、なかなかな」
「どういう女性がタイプなのか聞いても『分からん』の一点張りなんだよ」
「分からんものは分からん! んな事より、そろそろ行くぞ」
「あぁ、レイラあとで」
「うん、気を付けていってらっしゃい!」
二人と分かれて女性陣がいる場所へと向かった。
「レイラ!」
「ジュリア様!」
「よろしければ待っている間わたくしとお茶でも如何かしら?」
「ありがとうございます」
男性陣が集まる場所の少し高いところから女性が現れた。
「今回狩りに参加される皆様にどうか神のご加護がありますように」
真っ白で飾り気はないけど上品なドレスに身を包んだ女性は胸に手を当てやんわりと笑みを浮かべた。そしてそれが合図かの様に、男性たちは馬に乗り狩へと向かった。
「白のドレスを着た方はどなたなんですか?」
「彼女は第二王子の婚約者であり、我が国の聖女様ですわ」
いつも笑顔のジュリア様は少しの笑みも浮かべず、聖女様がさっきまでいた場所を見つめながら説明してくれた。
けどすぐに両手をパチンと合わせ、いつもの笑顔に戻った。
「さ! お茶にいたしましょう!」
ジュリア様の側仕えのメイドさんたちが手際よくお茶の準備をすすめていく。私もお菓子をいくつか持ってきていたので、お出ししてもいいか確認するとジュリア様は笑ってオッケーしてくれた。すぐそばに控えているサラに目配せすると、バスケットからクッキーとカップケーキを出し、小皿にはジャムを入れてくれた。
「このジャムはもしかして!」
「はい、ドルチェのジャムです。 それとこれは飴です。 もしお嫌いじゃなければと思って……」
「飴も大好きですわ! ありがとうございます、頂きますわね」
私が持ってきたお菓子は全て魔法で変なものが入っていないか調べられ、安全確認が終わってようやくお茶会がスタートした。
どれも美味しそうに食べてくれるから嬉しい。料理長にも教えてあげたらきっと喜んでくれるだろうな。
「魔物狩りの勝ち負けはどうやって決めるんですか?」
「魔物にもランクがありますの。 よりランクの高い魔物を狩った方が優勝ですわ。 もしも同じ高ランクの魔物を狩ったのであれば、他の狩った魔物を合わせて採点されますの」
「そうなんですね。 魔物と戦うなんて危険は無いんですか?」
「勿論危険はありますけれど、ここにはBランク以下の魔物しかおりませんし、参加していない騎士団が配置されてますので今まで一度も死者や重症者を出した事はありませんわ。 それに聖女様もおりますしね」
聖女様ね……ペネロープさんの話していた感じだとちょっと信用ならない人な気がするけど……。
「力になってくださればの話ですけれど……」
「え? すみません、何か仰いましたか?」
「ふふ、いいえ。 それにレイラもいらっしゃいますし、万が一怪我人が出たとしても大丈夫じゃないかしら」
怪我人の治療は屋敷の護衛騎士のみんなのちょっとした怪我しか治した事ない。血だらけの人とかを突然目の前にして落ち着いて治療できるか不安で堪らない。
「テオが優勝したらいいですね」
「ふふ、そうですわね。 でも、今回も優勝者は一緒じゃないかしら」
「今回も一緒?ですか?」
「第一王子が魔物狩りに参加する様になってからは毎年優勝者は第一王子のアレクお兄様ですわ」
「そうなんですか!?」
「ここ数年の参加者の中で上位精霊と契約しているのはアレクお兄様だけですの」
第一王子殿下は上位精霊の契約者。変に関わらない様に気をつけよう。まぁ私とは住む世界が違う人だろうし、気にするだけ時間の無駄よね。
せっかくだから王都でゆっくりしなさいと両親に言われていたので、ヴァレリー侯爵家でのんびりすごさせてもらっている。
ジュリオは勉強の時間が終わると私のところへやってきてはピアノを弾いてとせがんでくる。私はこちらの世界の曲はまだ数えるほどしか知らないから、日本で子供達が好む様なチューリップやきらきら星などの童謡を弾いて聴かせたら、ジュリオは喜んでくれた。どうやらこの世界には子供向けの曲はあまりないみたい。カノンや月光などの大人が聴いて楽しめる曲も好きみたい。
「レイラも魔物狩りに行くの?」
「行くよ。 といっても私はお茶を飲みながら待ってるだけだけど……」
「いいなぁ……僕はまだダメだって父様に言われちゃった……」
「直ぐに大きくなって参加出来る様になるよ」
不貞腐れるジュリオにドルチェのジャムをたっぷりいれた紅茶を差し出すと、すぐに嬉しそうな顔に変わった。ジュリオは本当に可愛い。
魔物討伐は年に一度の行事らしい。15歳以上の騎士、もしくは騎士と同等の力をもっている未婚の男性が参加できる。テオは第三王子殿下_つまりはトゥーサン殿下直属のホーク騎士団所属らしいので参加するとの事。騎士なのは知ってたけど、まさか副団長とは思ってなくてビックリした。
魔物狩り当日の早朝、狩場になっているリーゼの森側の大きな屋敷に集合した。屋敷の広場では恋人だったり親しい友人や家族に安全を願って女性陣がタッセルを渡している。
「レイラからはないの?」
テオの掌にタッセルの代わりに飴が数個入った小さい瓶を置いた。
「ジュリア様からのタッセルだけで十分でしょ? 私からは疲れた時に食べるドルチェの飴をあげる」
「綺麗な色だな」
便を持ち上げ、光を通す様に飴を見るテオ。そんなテオに見惚れる令嬢がチラホラ。ジュリア様が婚約者じゃなければ言い寄られてただろう。
「お! なんだよそれ! いいな!」
「宜しければパトリック様もどうぞ」
そう言って渡すととても喜んで受け取ってくれた。
よく見るとパトリック様の剣にはいくつものタッセルが付けられていた。
「モテモテですね」
「まぁ婚約者がいないからな」
「婚約者いらっしゃらないんですか?」
「両親からも急かされてはいるんだが、なかなかな」
「どういう女性がタイプなのか聞いても『分からん』の一点張りなんだよ」
「分からんものは分からん! んな事より、そろそろ行くぞ」
「あぁ、レイラあとで」
「うん、気を付けていってらっしゃい!」
二人と分かれて女性陣がいる場所へと向かった。
「レイラ!」
「ジュリア様!」
「よろしければ待っている間わたくしとお茶でも如何かしら?」
「ありがとうございます」
男性陣が集まる場所の少し高いところから女性が現れた。
「今回狩りに参加される皆様にどうか神のご加護がありますように」
真っ白で飾り気はないけど上品なドレスに身を包んだ女性は胸に手を当てやんわりと笑みを浮かべた。そしてそれが合図かの様に、男性たちは馬に乗り狩へと向かった。
「白のドレスを着た方はどなたなんですか?」
「彼女は第二王子の婚約者であり、我が国の聖女様ですわ」
いつも笑顔のジュリア様は少しの笑みも浮かべず、聖女様がさっきまでいた場所を見つめながら説明してくれた。
けどすぐに両手をパチンと合わせ、いつもの笑顔に戻った。
「さ! お茶にいたしましょう!」
ジュリア様の側仕えのメイドさんたちが手際よくお茶の準備をすすめていく。私もお菓子をいくつか持ってきていたので、お出ししてもいいか確認するとジュリア様は笑ってオッケーしてくれた。すぐそばに控えているサラに目配せすると、バスケットからクッキーとカップケーキを出し、小皿にはジャムを入れてくれた。
「このジャムはもしかして!」
「はい、ドルチェのジャムです。 それとこれは飴です。 もしお嫌いじゃなければと思って……」
「飴も大好きですわ! ありがとうございます、頂きますわね」
私が持ってきたお菓子は全て魔法で変なものが入っていないか調べられ、安全確認が終わってようやくお茶会がスタートした。
どれも美味しそうに食べてくれるから嬉しい。料理長にも教えてあげたらきっと喜んでくれるだろうな。
「魔物狩りの勝ち負けはどうやって決めるんですか?」
「魔物にもランクがありますの。 よりランクの高い魔物を狩った方が優勝ですわ。 もしも同じ高ランクの魔物を狩ったのであれば、他の狩った魔物を合わせて採点されますの」
「そうなんですね。 魔物と戦うなんて危険は無いんですか?」
「勿論危険はありますけれど、ここにはBランク以下の魔物しかおりませんし、参加していない騎士団が配置されてますので今まで一度も死者や重症者を出した事はありませんわ。 それに聖女様もおりますしね」
聖女様ね……ペネロープさんの話していた感じだとちょっと信用ならない人な気がするけど……。
「力になってくださればの話ですけれど……」
「え? すみません、何か仰いましたか?」
「ふふ、いいえ。 それにレイラもいらっしゃいますし、万が一怪我人が出たとしても大丈夫じゃないかしら」
怪我人の治療は屋敷の護衛騎士のみんなのちょっとした怪我しか治した事ない。血だらけの人とかを突然目の前にして落ち着いて治療できるか不安で堪らない。
「テオが優勝したらいいですね」
「ふふ、そうですわね。 でも、今回も優勝者は一緒じゃないかしら」
「今回も一緒?ですか?」
「第一王子が魔物狩りに参加する様になってからは毎年優勝者は第一王子のアレクお兄様ですわ」
「そうなんですか!?」
「ここ数年の参加者の中で上位精霊と契約しているのはアレクお兄様だけですの」
第一王子殿下は上位精霊の契約者。変に関わらない様に気をつけよう。まぁ私とは住む世界が違う人だろうし、気にするだけ時間の無駄よね。