精霊たちのメサイア
19.聖女様
19.聖女様
朝食の後、アロイス兄様に呼ばれ執務室へ向かった。アロイス兄様の執務室には初めて入ったけど、かなり豪華な校長室みたいな雰囲気。
ソファーに座る様促され、皮張りのソファーに座った。柔らかすぎず、硬すぎずな絶妙な座り心地のソファーだ。
メイドさんはお茶を準備するとすぐに出て行ってしまった。そういえばこうやってアロイス兄様と2人きりになるのは初めてな気がする。今日呼ばれた理由は何となく察しがつく。
「昨日は楽しかったか?」
「とっても。 ジュリア様とたくさんお話ができて楽しかったよ」
「そうか、それなら良かった」
お互いお茶を飲み、ほぼ同時にカップを置いた。
「アレクサンダー殿下のパートナーを務めたそうだな」
きた!本題!!
「あ、うん……急な事でビックリしたけど、足を踏んだりして粗相はしてないよ? 最後よろけちゃって転けそうだったけど、アレクサンダー殿下がうまく誤魔化してくれたの」
「アレクサンダー殿下は何故レイラを誘ったんだ? あ、いや、レイラは綺麗で魅力的だ。 レイラなんかをと言う意味で言ったわけではないからな」
私に誤解を与えない様にと、言葉を足すアロイス兄様の慌てぶりに笑ってしまった。
「お礼を言いたかったみたい」
「お礼? なんの?」
「内容は……アレクサンダー殿下に聞いてからじゃないと話せないけど、やましい事や恥ずべき事はしてない。 信じられないかもしれないけど、信じて欲しい」
「……いや、信じるよ。 アレクサンダー殿下の許可が出たら教えてくれ」
「ありがとう! アロイス兄様!」
隠し事はしたくないけど、アレクサンダー殿下のお母様の件だし…しかも相手は王族だからペラペラ話していい事じゃない。今度いつアレクサンダー殿下と会えるか分からないけど、会えたらちゃんと聞いてみよう。
少しだけ心が軽くなった。
「婚約を促されてでもいたらどうしようかと思ったよ」
「こ、婚約!? 私が!? ありえない!」
「何を言っているんだ。 さっきも言ったがレイラは綺麗で魅力的だ。 それに、侯爵家の人間でもある。 デビュタントも済ませ今後は引くて数多だろう」
そっか……日本では一般家庭だったから考えた事も気にした事もなかったけど、今は貴族の一員。日本でも勿論結婚は両家の問題ではあるけど、今の私の立場は日本での結婚とは比にならないくら家同士の繋がりを深くしっかりと考えないといけないんだ。好きな人と結婚したいと思ってたけど、その気持ちは我儘な思いになるんだろうか?私は……。
「レイラ? どうした?」
「え、ううん、何でもないよ。 私が引くて数多だなんて想像できないなって思って! 結婚のことはよく分からないから、お父様とお母様が勧めてくれた人と結婚するわ」
お父様とお母様が選んだ人と結婚すれば、きっと喜んでもらえる。そしたら少しは恩を返せるだろうか?せめてどんな形であろうと愛を育める相手だったらいいな。
「レイラ……君が気になる男性が現れたら、その時はちゃんと言いなさい。 いいね?」
「もし現れたらね! そうだ! 午後から教会に行ってきてもいい? 明日領地に帰るから、聖下にご挨拶に行きたいの」
「あぁ、行っておいで」
昼食を済ませた後は教会へ向かった。サラと護衛の騎士の男性2人も一緒に。護衛の付くような生活になるなんて考えた事もなかったけど、今では護衛のことも含め、色んな事が当たり前になってきている。
今日も教会には沢山の人達がきている。空いている席に座り、指先を絡めるように組み、目を瞑った。教会でいつも願うのは家族の幸せ。そして自分自身もこのまま幸せでいられますようにと願う。世界の平和だなんて大それた事を願ったことはない。それでもここに祈りにきている人たちの助けになっていると聖下は言う。
「あら? 確か王宮にいらっしゃったわよね?」
祈りを終え、いつものように近くにいる神官に声をかけようとしたら、私の方が誰かに声をかけられたので顔を向けた。声をかけてきたのは、少し癖のある赤毛を編み込んでハーフアップにしている女性だった。この人どこかで見たような……。
「えっと……いつの事でしょうか?」
デビュタントの時?それとも__。
「魔物狩りの後のパーティーよ。 アレクサンダー殿下と踊っていたでしょう?」
彼女の言葉を聞いて、周りが少し騒ついた。なんだかこの人……ちょっと嫌な感じ。わざわざそんな言い方する必要あった?
私が何も言わずに立っていると、困っていると思ったのかサラが耳元で「聖女様です」と教えてくれた。遠くからしか見てないから顔はよく分からなかったけど、確かに赤髪だった気がする。
「あの晩アレクサンダー殿下が他にも踊っていないのであれば、それは私だと思います」
ニッコリ笑って答えると、一瞬聖女様の目が鋭くなった。けどそれは直ぐに笑顔に変わった。
「宜しければ今からお茶でもどうかしら?」
「お誘い頂きありがとうございます。 ですがこの後予定が入っておりますので失礼いたします」
「また機会があれば宜しくおねがいします」なんて社交辞令、口が裂けても言いたくなかった。
「聖女であるわたくしの誘いを断るというの?」
その一言でまたしても聖女のイメージが崩壊した。
このまま聖下に会いに行きたかったけど、ここで聖女様と揉めて侯爵家に迷惑がかかったら嫌だから、行きたくないけどお茶しに行くしかないかな……。
「レイラ様、お迎えに上がりました」
口を開きかけたところでフェニーニ枢機卿が現れた。枢機卿は私を庇うように側に立った。
「これは、これは聖女様。 本日もお祈り頂きありがとうございます。 皆様とても御喜びになった事でしょう」
「聖女の務めだもの。 気になさらないで。 それより、わたくし今からそちらの令嬢とお茶をしに行くからどいて下さらない?」
フェニーニ枢機卿と目が合い、小さく首を横に振った。
私まだ行くとは言ってない。
「申し訳ありません。 レイラ様はこの後私と約束をしております」
「わたくしよりも優先するべき事だとういの?」
とてつもない自己中な聖女様。こんな人が聖女でこの世界は大丈夫なわけ?私が心配する事じゃないだろうけど。
「ヴァレリー侯爵家には常日頃からご支援頂いておりますので、そのお礼も兼ねてレイラ様にはお越し頂いたのです。 まだレイラ様とはきちんとお話できておりませんので、どうか本日は私にレイラ様とお話しする機会を譲っていただけませんか?」
侯爵家に関する用事だからか、まだ納得できないような顔をしながらも聖女様は諦めて帰って行った。
聖女様の姿が見えなくなり、ホッと胸を撫で下ろした。
フェニーニ枢機卿に付き添われ、聖下の元へ向かった。
「先程はありがとうございました。 タイミングよくフェニーニ枢機卿が来て下さって助かりました」
「神官から困った事になっていると連絡がありましたので、急いでお迎えに上がりました。 聖女様とお会いになったのは初めてですか?」
「魔物狩りの時に遠目で見ただけで、言葉を交わしたのは初めてです。 失礼ですけど、聖女様はいつもあんな感じなんですか?」
「第二王子殿下の婚約者になられてからでしょうか。 初めからあの様な感じではありませんでした」
権力者の婚約者になったから偉そうになったって事だろうか?あの傲慢で全ての人が自分の言うことはなんでも聞いてくれると当たり前のように思っている態度……母を彷彿とさせる。忘れかけていた感情が心臓に絡みつくような、なんとも言えない嫌な気分になる。
朝食の後、アロイス兄様に呼ばれ執務室へ向かった。アロイス兄様の執務室には初めて入ったけど、かなり豪華な校長室みたいな雰囲気。
ソファーに座る様促され、皮張りのソファーに座った。柔らかすぎず、硬すぎずな絶妙な座り心地のソファーだ。
メイドさんはお茶を準備するとすぐに出て行ってしまった。そういえばこうやってアロイス兄様と2人きりになるのは初めてな気がする。今日呼ばれた理由は何となく察しがつく。
「昨日は楽しかったか?」
「とっても。 ジュリア様とたくさんお話ができて楽しかったよ」
「そうか、それなら良かった」
お互いお茶を飲み、ほぼ同時にカップを置いた。
「アレクサンダー殿下のパートナーを務めたそうだな」
きた!本題!!
「あ、うん……急な事でビックリしたけど、足を踏んだりして粗相はしてないよ? 最後よろけちゃって転けそうだったけど、アレクサンダー殿下がうまく誤魔化してくれたの」
「アレクサンダー殿下は何故レイラを誘ったんだ? あ、いや、レイラは綺麗で魅力的だ。 レイラなんかをと言う意味で言ったわけではないからな」
私に誤解を与えない様にと、言葉を足すアロイス兄様の慌てぶりに笑ってしまった。
「お礼を言いたかったみたい」
「お礼? なんの?」
「内容は……アレクサンダー殿下に聞いてからじゃないと話せないけど、やましい事や恥ずべき事はしてない。 信じられないかもしれないけど、信じて欲しい」
「……いや、信じるよ。 アレクサンダー殿下の許可が出たら教えてくれ」
「ありがとう! アロイス兄様!」
隠し事はしたくないけど、アレクサンダー殿下のお母様の件だし…しかも相手は王族だからペラペラ話していい事じゃない。今度いつアレクサンダー殿下と会えるか分からないけど、会えたらちゃんと聞いてみよう。
少しだけ心が軽くなった。
「婚約を促されてでもいたらどうしようかと思ったよ」
「こ、婚約!? 私が!? ありえない!」
「何を言っているんだ。 さっきも言ったがレイラは綺麗で魅力的だ。 それに、侯爵家の人間でもある。 デビュタントも済ませ今後は引くて数多だろう」
そっか……日本では一般家庭だったから考えた事も気にした事もなかったけど、今は貴族の一員。日本でも勿論結婚は両家の問題ではあるけど、今の私の立場は日本での結婚とは比にならないくら家同士の繋がりを深くしっかりと考えないといけないんだ。好きな人と結婚したいと思ってたけど、その気持ちは我儘な思いになるんだろうか?私は……。
「レイラ? どうした?」
「え、ううん、何でもないよ。 私が引くて数多だなんて想像できないなって思って! 結婚のことはよく分からないから、お父様とお母様が勧めてくれた人と結婚するわ」
お父様とお母様が選んだ人と結婚すれば、きっと喜んでもらえる。そしたら少しは恩を返せるだろうか?せめてどんな形であろうと愛を育める相手だったらいいな。
「レイラ……君が気になる男性が現れたら、その時はちゃんと言いなさい。 いいね?」
「もし現れたらね! そうだ! 午後から教会に行ってきてもいい? 明日領地に帰るから、聖下にご挨拶に行きたいの」
「あぁ、行っておいで」
昼食を済ませた後は教会へ向かった。サラと護衛の騎士の男性2人も一緒に。護衛の付くような生活になるなんて考えた事もなかったけど、今では護衛のことも含め、色んな事が当たり前になってきている。
今日も教会には沢山の人達がきている。空いている席に座り、指先を絡めるように組み、目を瞑った。教会でいつも願うのは家族の幸せ。そして自分自身もこのまま幸せでいられますようにと願う。世界の平和だなんて大それた事を願ったことはない。それでもここに祈りにきている人たちの助けになっていると聖下は言う。
「あら? 確か王宮にいらっしゃったわよね?」
祈りを終え、いつものように近くにいる神官に声をかけようとしたら、私の方が誰かに声をかけられたので顔を向けた。声をかけてきたのは、少し癖のある赤毛を編み込んでハーフアップにしている女性だった。この人どこかで見たような……。
「えっと……いつの事でしょうか?」
デビュタントの時?それとも__。
「魔物狩りの後のパーティーよ。 アレクサンダー殿下と踊っていたでしょう?」
彼女の言葉を聞いて、周りが少し騒ついた。なんだかこの人……ちょっと嫌な感じ。わざわざそんな言い方する必要あった?
私が何も言わずに立っていると、困っていると思ったのかサラが耳元で「聖女様です」と教えてくれた。遠くからしか見てないから顔はよく分からなかったけど、確かに赤髪だった気がする。
「あの晩アレクサンダー殿下が他にも踊っていないのであれば、それは私だと思います」
ニッコリ笑って答えると、一瞬聖女様の目が鋭くなった。けどそれは直ぐに笑顔に変わった。
「宜しければ今からお茶でもどうかしら?」
「お誘い頂きありがとうございます。 ですがこの後予定が入っておりますので失礼いたします」
「また機会があれば宜しくおねがいします」なんて社交辞令、口が裂けても言いたくなかった。
「聖女であるわたくしの誘いを断るというの?」
その一言でまたしても聖女のイメージが崩壊した。
このまま聖下に会いに行きたかったけど、ここで聖女様と揉めて侯爵家に迷惑がかかったら嫌だから、行きたくないけどお茶しに行くしかないかな……。
「レイラ様、お迎えに上がりました」
口を開きかけたところでフェニーニ枢機卿が現れた。枢機卿は私を庇うように側に立った。
「これは、これは聖女様。 本日もお祈り頂きありがとうございます。 皆様とても御喜びになった事でしょう」
「聖女の務めだもの。 気になさらないで。 それより、わたくし今からそちらの令嬢とお茶をしに行くからどいて下さらない?」
フェニーニ枢機卿と目が合い、小さく首を横に振った。
私まだ行くとは言ってない。
「申し訳ありません。 レイラ様はこの後私と約束をしております」
「わたくしよりも優先するべき事だとういの?」
とてつもない自己中な聖女様。こんな人が聖女でこの世界は大丈夫なわけ?私が心配する事じゃないだろうけど。
「ヴァレリー侯爵家には常日頃からご支援頂いておりますので、そのお礼も兼ねてレイラ様にはお越し頂いたのです。 まだレイラ様とはきちんとお話できておりませんので、どうか本日は私にレイラ様とお話しする機会を譲っていただけませんか?」
侯爵家に関する用事だからか、まだ納得できないような顔をしながらも聖女様は諦めて帰って行った。
聖女様の姿が見えなくなり、ホッと胸を撫で下ろした。
フェニーニ枢機卿に付き添われ、聖下の元へ向かった。
「先程はありがとうございました。 タイミングよくフェニーニ枢機卿が来て下さって助かりました」
「神官から困った事になっていると連絡がありましたので、急いでお迎えに上がりました。 聖女様とお会いになったのは初めてですか?」
「魔物狩りの時に遠目で見ただけで、言葉を交わしたのは初めてです。 失礼ですけど、聖女様はいつもあんな感じなんですか?」
「第二王子殿下の婚約者になられてからでしょうか。 初めからあの様な感じではありませんでした」
権力者の婚約者になったから偉そうになったって事だろうか?あの傲慢で全ての人が自分の言うことはなんでも聞いてくれると当たり前のように思っている態度……母を彷彿とさせる。忘れかけていた感情が心臓に絡みつくような、なんとも言えない嫌な気分になる。