精霊たちのメサイア

22.耳と尻尾とうるうるはダメ

22.耳と尻尾とうるうるはダメ


無事にお家に帰り着いたはいいけど、魔物に襲われてしまった件を従魔に報告させていたらしく、帰り着いた途端お父様とお母様に力強く抱きしめられた。サラには大泣きされ、本当に帰ってこられて良かったと思った。そんなこんなでキャロディルーナは早々にお母様に見つかってしまい、その場でプレゼントする事になった。お母様は「嬉しいけど危ないことして!」と泣きながら怒っていて、でも最後は嬉しそうに笑ってお父様を抱きしめていた。

キャロディルーナは魔力を豊富に含んでいるから魔物が好んで食べていると、お父様に報告した。そしたら少し研究してみてもいいかもしれないとかなんとか、ブツブツ言っていた。


「ところでそちらの子は?」


お母様にそう言われて、ビルは前に出た。


「ご挨拶が遅くなりました。 私はビルヒリオ・ロペスと申します」

「まさか……獣王国のビルヒリオ殿下でいらっしゃいますか!?」

「えっっ!?」


殿下!?殿下って王子様!?

思わず声を上げると、ビルは苦笑いを浮かべた。


「はい。 途方に暮れているところをレイラ様に助けて頂きました」


それにこんなにしっかり話してる姿を見てると、出会ったころの無邪気な雰囲気が嘘のよう。

とにかく屋敷の中にとお父様に言われて、私たちは一度一息つく事にした。

お風呂で身体を綺麗にして、楽なワンピースに着替えたところでドアがノックされた。


「ガランです。 今宜しいでしょうか」

「えぇ、どうぞ」


思わぬ訪問者に驚いた。ガラン団長を部屋に招き入れ、椅子に座るよう促した。けどガラン団長は首を横に振り、深々と頭を下げた。


「申し訳ありませんでした!!!!」


驚いていると、ガラン団長の太くて迫力のある声が部屋中に響き渡った。


「あ、あ、あの……ガラン団長、何の事でしょう?」

「レイラお嬢様を危険な目に遭わせてしまいました!! 今回同行させて頂いた騎士達にはなんらかの処罰を__」

「ダメ!!!! そんなの止めて! 私はこうして無事なんだから、罰なんて与えないで……!」

「しかしそれは結果論に過ぎません。 報告によればレイラお嬢様は崖から落ちたと聞きました。 普通ならば命を失ってもおかしくない状況です」

「だったら私が罰を決めます!! それで許してもらえない?」


暫しの沈黙の後、ガラン団長は小さく息を吐いた。


「分かりました。 では罰が決まり次第私に教えてください」


そう言ってガラン団長は部屋から出て行った。

一息つこうとソファーに座った瞬間、メイドさんが呼びにきたので私は応接室へ向かった。応接室には両親とビルだけだろうと思っていたのに、他にもお客様がいて一瞬固まってしまった。


「アレクサンダーで……様もいらっしゃるとは思わず、失礼いたしました」

「いや、気にするな。 無事で何よりだ」


アレクサンダー様の後ろに立っている二人の男性は初めて見る。

ビルが隣を空けてくれて隣に座ると、ニコッと笑った。その笑顔に釣られるように私も笑った。


「ロペス国王陛下に連絡させてもらいました。 直ぐにこちらに使者を送って下さるそうです」

「アレクサンダー殿下、お手間を取らせてしまい申し訳ありません。 感謝いたします」


背筋を伸ばし、アレクサンダー様としっかり向き合い話をするビルの顔は幼くとも王族なんだなと思わせられる。


「使者が到着するまでは王宮に滞在して頂ければと思っております」

「…………」


アレクサンダー様の後ろに立つ髪の長いキリッとした顔の男性の提案に、ビルは私の顔をチラチラ観ながら落ち着きがなくなった。


「ビルヒリオ殿下、希望があれば遠慮なく言って下さい」


助け舟を出したのはアレクサンダー様だった。


「これは私の我儘なんですが……もし可能であれば、ヴァレリー家に滞在してはいけませんか?」

「理由を聞いても?」

「レイラは初めて私を見た時蔑むでも嫌悪するでもなく、一人の人として受け入れ接してくれました。 そして恐れる事もなく、手を取って傷を癒してくれました。 初めて訪れたこの国で誰よりも信用できる人なんです」


そんな風に思ってくれてたなんて……ちょっと感動してしまった。ビルの頭を撫でたい気持ちをグッと我慢した。


「ビルヒリオ殿下の気持ちはよく分かりました。 ですが警備の関係上こちらよりも王宮にご滞在願いたい。 ですので、付き添いとしてレイラにも王宮に滞在してもらう……ということでも宜しいですか?」


アレクサンダー様の提案にギョッとした。ビルの迎えが来るまで王宮で生活するって事だよね!?私が!?


「レイラがそれでも大丈夫なら……」


そんなうるうるした目で見つめないで!!その可愛い顔に合わせてモフモフの耳が……かわいさ倍増。


「私が王宮に滞在する事が問題ないのであれば、ビルヒリオ殿下の付き添いとして王宮に参ります」

「レイラ! ありがとう!」


ビルに突然抱きつかれよろける身体をなんとか片手で支えた。

その後私はビルとアレクサンダー様に敷地内を案内した。アレクサンダー様の後ろにぴったりくっついているのは側近のロレンソ様とルシオ様。ロレンソ様は魔導士団に所属しており、ルシオ様はアレクサンダー様直属の騎士団、アルジェント騎士団所属との事。


「少し休憩しましょうか」

「うん!」


外のティースペースで少し休憩する事にした。ロレンソ様とルシオ様にも椅子を進めたが、二人には断られてしまった。

サラが用意してくれたお茶やお菓子をロレンソ様が毒物が含まれていないか調べていく。


「ビルはどれが食べたい?」


公式の場ではないから、敬語は使わないでほしいと言われたのでビルには友達のように接している。


「ケーキ!」


沢山のベリーを使ったケーキをお皿に取ってあげた。


「アレクサンダー様はどれになさいますか?」

「スコーンを頂こう」

「ジャムはどれがいいですか?」

「おすすめは?」

「甘いものが大丈夫でしたらドルチェのジャムがおすすめです」

「お! やはりそれはドルチェの実か! 私もスコーンと共に頂こう」


突然フレイムが現れて、ビルはビックリしている。でも目はとてもキラキラしている。好奇心旺盛な子だと思う。


「おい! ずりーぞ!!」

「お、おい!」


黄色に紫のメッシュが入ったロングヘアの精霊が突如現れさらに賑やかになった。誰よりもロレンソ様が慌てている。


「俺も食ってやってもいいぞ!!」

「ふふ、貴方は雷の上位精霊トネールね」

「俺を知ってんのか!?」

「ぶっきらぼうだがあれは照れ隠しだ。 そして精霊界で1、2を争う甘党だ。 ってアルファから聞いてるわ。 そんなトネールにはスコーンよりもカップケーキにドルチェのジャムの方がいいと思う」


お皿にカップケーキとジャムを添えトネールに渡した。そしてフレイムにはアレクサンダー様と同じスコーンとジャムを渡した。

初めて精霊を見たビルはお茶の間ずっと興奮していた。頭を抱えるロレンソ様と苦笑いを浮かべるアレクサンダー様とルシオ様は見ないようにした。

大変な1日が嘘のように楽しい1日になった。





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