精霊たちのメサイア
24.偏見でしょうか
24.偏見でしょうか
王宮ではビルの隣の部屋が用意された。侯爵家の部屋も豪華だと思ったけど、比じゃないくらい豪華。テレビの海外旅行番組とかで見るような超がつく高級ホテルの一室って感じの部屋。観音開きの窓をあけると、目の前には手入れの行き届いた庭園が見渡せる。この庭園は来客を楽しませる為に他の庭園よりも華やかにされているとジュリア様が言っていた。王族だけが入れる薔薇の庭園もあるらしい。
王宮の部屋でも寂しさを感じる暇がないくらい、精霊が遊びにきてくれる。今も部屋に用意されたお菓子をみんなは美味しそうにパクパクと食べている。まだ二日しか滞在してないけど、私はお菓子をバカバカ食べる人だと思われてるだろう。精霊たちは私とサラ以外の人がいるときには姿を表さない。
「私は出るけど、みんなはゆっくりしてね」
「はーいー」
「いってらっしゃいー」
「らっしゃーいー」
私はサラと一緒に部屋を出て、ビルを誘ってティールームへ向かった。王宮は広くて迷子になってしまうから、王宮のメイドさんが道案内をしてくれる。
ティールームに入ると、既に相手は来ていて足早になる。
「お待たせして申し訳ありません!」
「あら、いいのよ。 私もさっき来たところだから気にしないで」
ジュリア様は椅子から立ち上がると、ニッコリ微笑んだ。
「初めまして、ビルヒリオ殿下。 わたくしは第四王女のジュリアと申します。 お会いできて嬉しいですわ」
「初めまして、ジュリア殿下。 ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。 獣王国第五王子、ビルヒリオと申します。 本日は私までお誘い頂きありがとうございます。 暫く滞在させていただく事になりましたので宜しくお願いいたします」
「少しでも寛いでお過ごし頂ければ嬉しいですわ」
「ありがとうございます」
和やかな雰囲気でお茶会が始まった。
ジュリア様に勧められ、アップルパイを食べた。頬っぺたがおっこちそうとはこういうときに使うんじゃないかってくらい美味しかった。甘さ控えめなさっぱりとした紅茶が良くあう。
「クッキー取ろうか?」
「な、何で分かったの?」
「あはは、そんな目をしてたから。 はい、どうぞ」
「ありがとう」
ビルとそんなやりとりをしていると、ジュリア様の「ふふっ」という小さな笑い声が聞こえた。
首をかしげた。
「ごめんなさい。 お会いになって日が浅いと思えないくらいとても仲良しに見えましたの」
「レイラといると何故か気が緩んでしまいます」
「わたくしもです」
二人にそう言ってもらえて嬉しかった。私も二人といると楽しいし気が楽だ。
_コンコンコン。
ジュリア様の側仕えのメイドさんが返事をすると、ドアの前に立っていた衛兵さんが部屋に入ってきた。
「お寛ぎのところ失礼いたします。 ニコラース殿下と深紅の聖女様が、ビルヒリオ殿下へご挨拶にいらしております」
一瞬ジュリア様の表情が曇った様に見えた。でも見間違いかもしれないと思うほど、いつものにこやかな表情だった。
「ビルヒリオ殿下、兄たちを部屋へ通しても宜しいですか?」
「えぇ、勿論です」
部屋に入ってきた男性はすらっと背が高く細身だった。ぱっと見優男。第二王子殿下はアレクサンダー殿下とトゥーサン殿下とはまた全然雰囲気が違う。その第二王子殿下の腕にしっかり自分の腕を絡めている赤毛の女性……深紅の聖女様は貼り付けた様な笑みを浮かべている。やっぱりこの女性を見ると母を思い出して気分が悪くなる。
「ジュリア、ティータイム中にすまない」
「ニコお兄様でしたら大歓迎ですわ」
「ありがとう」
優男に見えるだけじゃなく、話し方も表情も本当に優しそうな人。
「ビルヒリオ殿下、お初にお目にかかります。 第二王子のニコラースと申します。 こちらの女性は私の婚約者であり深紅の聖女、マリアンネです」
「深紅の聖女、マリアンネと申します。 お会いできて光栄ですわ」
そう言って笑った深紅の聖女の態度が多少バカにしている様に見えるのは私のただの偏見だろうか。
「滞在中もしお困りのことがあれば気兼ねなく仰ってください」
「初めまして、ニコラース殿下、深紅の聖女様。 獣王国のビルヒリオと申します。 突然の滞在にも関わらずお心遣い感謝いたします」
深紅の聖女の側にいると、自分の嫌な部分を刺激されている様な気分になる。気付けば自然とローゼンハイム聖下に頂いたイヤーカフに触れていた。不思議と触れると心が落ち着く様だった。
「侯爵領で保護されたと聞きましたわ。 ご無事で何よりです」
深紅の聖女は扇子で口元を上品に隠し微笑んだ。けど瞳の奥までは笑えていない。
「幸いな事にレイラが見つけてくれました」
「まぁ! そうだったんですの? レイラ様にはぜひその時のお話しを聞かせていただきたいわ」
「楽しい話ではないので退屈かと思います。 楽しいお話ができる様になりましたら、その機会を頂けると幸いです」
瞳の奥が笑っていない深紅の聖女に私も笑って返した。同じように私の目の奥も笑っていないかもしれない。
「せっかくのティータイムを邪魔して申し訳なかった。 私たちはそろそろ失礼するよ」
微妙な空気を壊してくれたのはニコラース殿下だった。二人が部屋から出ていき、フーッと息を吐くと隣のビルも同じく息を吐いた。キョトン顔のビルと目が合い笑ってしまった。
「レイラは分かりやすい人だね」
「え?」
「まったくですわ。 もう少し取り繕う事を覚えた方がいいわ」
ビルとジュリア様には呆れられてしまった。
「そんなにあからさまに態度に出てました?」
「本当にレイラなの?って思ってしまうほど氷の様な笑みだったわ」
「ビックリしたよ。 レイラにも苦手な人っているんだね」
「あ、えっと……あ、はい……すみません、今後気を付けます」
割と感情を押し殺して取り繕うのは得意だったのに、こちらの世界に来て気が緩んでしまっているからだろうか……どうやら下手くそになってしまった様だ。気を引き締めないと。こちらの世界で同じ事を繰り返したくない。
「わたくしの前では今のままでいいのよ。 誰の悪口だろうと不満だろうと遠慮なくどうぞ」
「そ、そんな! 言いませんよ」
「あら、どうして? わたくしは色んな事が溜まってるわ。 先ずはテオの事かしらね!」
そう言ってテオへの不満を言い始めたジュリア様。不満というか、聞き方によっては惚気ともいう。
ビルには新しい名前が出てくるたびに簡単に関係性を説明した。なんだか女子会のような流れになってしまったけど、ビルは特に気まずそうにも退屈そうにするでもなく、普通に会話に混じっていた。
王宮ではビルの隣の部屋が用意された。侯爵家の部屋も豪華だと思ったけど、比じゃないくらい豪華。テレビの海外旅行番組とかで見るような超がつく高級ホテルの一室って感じの部屋。観音開きの窓をあけると、目の前には手入れの行き届いた庭園が見渡せる。この庭園は来客を楽しませる為に他の庭園よりも華やかにされているとジュリア様が言っていた。王族だけが入れる薔薇の庭園もあるらしい。
王宮の部屋でも寂しさを感じる暇がないくらい、精霊が遊びにきてくれる。今も部屋に用意されたお菓子をみんなは美味しそうにパクパクと食べている。まだ二日しか滞在してないけど、私はお菓子をバカバカ食べる人だと思われてるだろう。精霊たちは私とサラ以外の人がいるときには姿を表さない。
「私は出るけど、みんなはゆっくりしてね」
「はーいー」
「いってらっしゃいー」
「らっしゃーいー」
私はサラと一緒に部屋を出て、ビルを誘ってティールームへ向かった。王宮は広くて迷子になってしまうから、王宮のメイドさんが道案内をしてくれる。
ティールームに入ると、既に相手は来ていて足早になる。
「お待たせして申し訳ありません!」
「あら、いいのよ。 私もさっき来たところだから気にしないで」
ジュリア様は椅子から立ち上がると、ニッコリ微笑んだ。
「初めまして、ビルヒリオ殿下。 わたくしは第四王女のジュリアと申します。 お会いできて嬉しいですわ」
「初めまして、ジュリア殿下。 ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。 獣王国第五王子、ビルヒリオと申します。 本日は私までお誘い頂きありがとうございます。 暫く滞在させていただく事になりましたので宜しくお願いいたします」
「少しでも寛いでお過ごし頂ければ嬉しいですわ」
「ありがとうございます」
和やかな雰囲気でお茶会が始まった。
ジュリア様に勧められ、アップルパイを食べた。頬っぺたがおっこちそうとはこういうときに使うんじゃないかってくらい美味しかった。甘さ控えめなさっぱりとした紅茶が良くあう。
「クッキー取ろうか?」
「な、何で分かったの?」
「あはは、そんな目をしてたから。 はい、どうぞ」
「ありがとう」
ビルとそんなやりとりをしていると、ジュリア様の「ふふっ」という小さな笑い声が聞こえた。
首をかしげた。
「ごめんなさい。 お会いになって日が浅いと思えないくらいとても仲良しに見えましたの」
「レイラといると何故か気が緩んでしまいます」
「わたくしもです」
二人にそう言ってもらえて嬉しかった。私も二人といると楽しいし気が楽だ。
_コンコンコン。
ジュリア様の側仕えのメイドさんが返事をすると、ドアの前に立っていた衛兵さんが部屋に入ってきた。
「お寛ぎのところ失礼いたします。 ニコラース殿下と深紅の聖女様が、ビルヒリオ殿下へご挨拶にいらしております」
一瞬ジュリア様の表情が曇った様に見えた。でも見間違いかもしれないと思うほど、いつものにこやかな表情だった。
「ビルヒリオ殿下、兄たちを部屋へ通しても宜しいですか?」
「えぇ、勿論です」
部屋に入ってきた男性はすらっと背が高く細身だった。ぱっと見優男。第二王子殿下はアレクサンダー殿下とトゥーサン殿下とはまた全然雰囲気が違う。その第二王子殿下の腕にしっかり自分の腕を絡めている赤毛の女性……深紅の聖女様は貼り付けた様な笑みを浮かべている。やっぱりこの女性を見ると母を思い出して気分が悪くなる。
「ジュリア、ティータイム中にすまない」
「ニコお兄様でしたら大歓迎ですわ」
「ありがとう」
優男に見えるだけじゃなく、話し方も表情も本当に優しそうな人。
「ビルヒリオ殿下、お初にお目にかかります。 第二王子のニコラースと申します。 こちらの女性は私の婚約者であり深紅の聖女、マリアンネです」
「深紅の聖女、マリアンネと申します。 お会いできて光栄ですわ」
そう言って笑った深紅の聖女の態度が多少バカにしている様に見えるのは私のただの偏見だろうか。
「滞在中もしお困りのことがあれば気兼ねなく仰ってください」
「初めまして、ニコラース殿下、深紅の聖女様。 獣王国のビルヒリオと申します。 突然の滞在にも関わらずお心遣い感謝いたします」
深紅の聖女の側にいると、自分の嫌な部分を刺激されている様な気分になる。気付けば自然とローゼンハイム聖下に頂いたイヤーカフに触れていた。不思議と触れると心が落ち着く様だった。
「侯爵領で保護されたと聞きましたわ。 ご無事で何よりです」
深紅の聖女は扇子で口元を上品に隠し微笑んだ。けど瞳の奥までは笑えていない。
「幸いな事にレイラが見つけてくれました」
「まぁ! そうだったんですの? レイラ様にはぜひその時のお話しを聞かせていただきたいわ」
「楽しい話ではないので退屈かと思います。 楽しいお話ができる様になりましたら、その機会を頂けると幸いです」
瞳の奥が笑っていない深紅の聖女に私も笑って返した。同じように私の目の奥も笑っていないかもしれない。
「せっかくのティータイムを邪魔して申し訳なかった。 私たちはそろそろ失礼するよ」
微妙な空気を壊してくれたのはニコラース殿下だった。二人が部屋から出ていき、フーッと息を吐くと隣のビルも同じく息を吐いた。キョトン顔のビルと目が合い笑ってしまった。
「レイラは分かりやすい人だね」
「え?」
「まったくですわ。 もう少し取り繕う事を覚えた方がいいわ」
ビルとジュリア様には呆れられてしまった。
「そんなにあからさまに態度に出てました?」
「本当にレイラなの?って思ってしまうほど氷の様な笑みだったわ」
「ビックリしたよ。 レイラにも苦手な人っているんだね」
「あ、えっと……あ、はい……すみません、今後気を付けます」
割と感情を押し殺して取り繕うのは得意だったのに、こちらの世界に来て気が緩んでしまっているからだろうか……どうやら下手くそになってしまった様だ。気を引き締めないと。こちらの世界で同じ事を繰り返したくない。
「わたくしの前では今のままでいいのよ。 誰の悪口だろうと不満だろうと遠慮なくどうぞ」
「そ、そんな! 言いませんよ」
「あら、どうして? わたくしは色んな事が溜まってるわ。 先ずはテオの事かしらね!」
そう言ってテオへの不満を言い始めたジュリア様。不満というか、聞き方によっては惚気ともいう。
ビルには新しい名前が出てくるたびに簡単に関係性を説明した。なんだか女子会のような流れになってしまったけど、ビルは特に気まずそうにも退屈そうにするでもなく、普通に会話に混じっていた。