精霊たちのメサイア
26.王妃陛下
26.王妃陛下
ビルたちのために、今日は王城で夜会が開かれた。本来ならばまだ10歳のビルが参加するには早い夜会だけど、国王陛下のはからいで催された。お昼にも小さなお茶会が催されたがもっと大規模なものをと思ったようだ。私はビルのパートナーとして参加している。
それにしても……居心地が悪い。
この国では獣人だからと差別されることも、奴隷にされる事もない。獣人だけに限らず、奴隷制度を廃止している。差別されていないからといって、人と同じように思っていない人たちも少なからずいるということに、お茶会でもそうだったけど今夜のパーティーでもひしひしと感じられる。私が気付いているくらいだから、ビルも気付いていると思う。それなのに態度や表情に一切出さない。そんなビルの姿が日本にいたときの自分の姿と重なって見えた。
「ビルヒリオ殿下、何か召し上がりませんか?」
「そうだね。 せっかくだから少し何か頂こうかな」
「取って参りますので、あちらのソファーにてお待ちください」
顔には出さないだけできっと疲れているだろうと思い、ビルを休ませてあげたかった。ビルを見送り、私は甘いケーキが並んでいる所へ向かった。
流石は王宮のパーティー。ケーキだけでも数えきれない程の種類が並んでいる。それも色んな味を味わえるように一口、二口サイズ。
「楽しんでいるかい?」
ビルの好きそうなケーキを選んでいると声をかけられ、一瞬息を呑んだ。
こ、国王陛下!!
「は、はい。 楽しませて頂いております」
ケーキをのせたお皿を慌てて置いて、国王陛下にご挨拶をした。
国王陛下の側には、薔薇園で一緒にいた男性が立っている。ジュリア様にさり気なく聞いてみたところ、この男性は宰相閣下との事。
「ビルヒリオ殿下は不便なく過ごしているだろうか?」
「はい。 皆様にとても良くして頂いていると仰っておりました。 王宮の庭園もとても気に入っていらっしゃいます」
「そうか、それなら良い。 ヴァレリー前侯爵は元気にしているか?」
「は__」
「陛下、探しましたわ」
答えしようとして、遮られた。
突然現れた女性は茶色の髪の毛を綺麗に結い上げ、深い赤のドレスに身を包んだ海外の女優さんの様だった。
「あら? そちらのお嬢さんは?」
「初めまして。 レイラ・ヴァレリーと申します」
「貴女が…そう……」
上から下までジッと見られ、落ち着かない。それに笑ってるけど目が笑ってなくて怖い。震えそうになる体を両手で抱きしめたかったけど、きっとそれは無礼な行為になってしまう。
「レイラ」
知っている声になんだかホッとした。
「っと__父上、王妃陛下。 これは失礼いたしました。 レイラと一曲踊りたいので、彼女をお借りしても宜しいですか?」
アレクサンダー殿下は私の隣に立つと、私の腰に手を当て引き寄せた。とても近くてドキドキする。けどなんの断りもなく触れられても、気持ち悪さや嫌な気持ちは少しもなかった。それどころか安心してしまった。
国王陛下と王妃陛下に向き合うアレクサンダー殿下の表情は少し冷たさを感じた。
「レイラ嬢、ヴァレリー前侯爵にたまには顔を見せる様伝えてくれ」
「は、はい」
そう言うと国王陛下は王妃陛下と行ってしまった。
「大丈夫か?」
「え__?」
先程の冷たい表情からは想像できないくらい、柔らかな声色だった。
「顔色が悪い様に見えた。 何か言われたか?」
「あ、いいえ! 国王陛下からはビルがここでの生活に困っていることがないか聞かれただけです」
「王妃からは?」
「王妃陛下とは特に何も……ご挨拶させて頂いただけです」
そう…特に何か話したわけじゃない。ただ絡みつく様な視線に私が落ち着かなかっただけ。
ギュッと握った手を包む様にもう片方の手で握った。
「よし、踊るぞ」
「え? 本当に踊るんですか!?」
「当たり前だ」
「あ、あの! その前にビルにケーキを持って行ってもいいですか?」
「それなら問題ない。 ロレンソ、代わりに頼む」
「畏まりました」
_ビクッ!
まさか側にいると思ってなくて、驚いた。
ロレンソ様に「すみません」と言い終わるか終わらないかくらいで、アレクサンダー殿下に手を引かれホールに連れて行かれた。
踊り始め、ステップを間違えないか、アレクサンダー殿下の足を踏んでしまわないか内心ヒヤヒヤしていると、今夜のパーティーに出席しているアロイス兄様と目が合った。
きっと誤解してる……後で違うと説明しないと……。
「どうした」
「あ、いえ……何でもありません」
「兄が貴方との関係を誤解している様なので、踊るのをやめたいんですけど」なんて言えるわけない。
アレクサンダー殿下の整えられた髪の毛に目がいった。
「アレクサンダー様の綺麗なシルバーヘアは国王陛下譲りなんですね」
私の言葉に少し驚いた顔をするアレクサンダー殿下。その反応に私も驚いた。
「君には本当に驚かされる」
「それはどういう意味ですか?」
「さぁ? どういう意味だろうな」
これ以上聞いても教えてくれ無さそうな感じだ。
「レイラ、王宮では誰にも心を許すな。 ここでは皆が心の内を語らない。 腹の探り合いが好きな奴らばかりだ。 やましい気持ちでレイラに近付こうとする者も少なくないだろう。 決して利用されるな」
「……アレクサンダー様もですか?」
「君を利用したいなどとは思っていない。 だが信用しろとは言わない」
今までアレクサンダー殿下の様な人と接したことがないからか、この人が本当はどういう人なのかまだ分からなかった。でも悪い人ではないんだと思う。芯の通った人の様に思える。
「分かりました。 信用はいたしません。 でも信頼はいたします」
「…………」
私の言葉を聞いたアレクサンダー殿下は何も答えなかった。でもそっと上げられた口角、あたたかな眼差しは美しく、恥ずかしくなってしまった私は逸らすように視線を下げた。
顔が熱い。
この火照りはダンスのせいなのか、恥ずかしさからなのか、それともほかの何かなのか……いくら考えても答えは出なかった。
ビルたちのために、今日は王城で夜会が開かれた。本来ならばまだ10歳のビルが参加するには早い夜会だけど、国王陛下のはからいで催された。お昼にも小さなお茶会が催されたがもっと大規模なものをと思ったようだ。私はビルのパートナーとして参加している。
それにしても……居心地が悪い。
この国では獣人だからと差別されることも、奴隷にされる事もない。獣人だけに限らず、奴隷制度を廃止している。差別されていないからといって、人と同じように思っていない人たちも少なからずいるということに、お茶会でもそうだったけど今夜のパーティーでもひしひしと感じられる。私が気付いているくらいだから、ビルも気付いていると思う。それなのに態度や表情に一切出さない。そんなビルの姿が日本にいたときの自分の姿と重なって見えた。
「ビルヒリオ殿下、何か召し上がりませんか?」
「そうだね。 せっかくだから少し何か頂こうかな」
「取って参りますので、あちらのソファーにてお待ちください」
顔には出さないだけできっと疲れているだろうと思い、ビルを休ませてあげたかった。ビルを見送り、私は甘いケーキが並んでいる所へ向かった。
流石は王宮のパーティー。ケーキだけでも数えきれない程の種類が並んでいる。それも色んな味を味わえるように一口、二口サイズ。
「楽しんでいるかい?」
ビルの好きそうなケーキを選んでいると声をかけられ、一瞬息を呑んだ。
こ、国王陛下!!
「は、はい。 楽しませて頂いております」
ケーキをのせたお皿を慌てて置いて、国王陛下にご挨拶をした。
国王陛下の側には、薔薇園で一緒にいた男性が立っている。ジュリア様にさり気なく聞いてみたところ、この男性は宰相閣下との事。
「ビルヒリオ殿下は不便なく過ごしているだろうか?」
「はい。 皆様にとても良くして頂いていると仰っておりました。 王宮の庭園もとても気に入っていらっしゃいます」
「そうか、それなら良い。 ヴァレリー前侯爵は元気にしているか?」
「は__」
「陛下、探しましたわ」
答えしようとして、遮られた。
突然現れた女性は茶色の髪の毛を綺麗に結い上げ、深い赤のドレスに身を包んだ海外の女優さんの様だった。
「あら? そちらのお嬢さんは?」
「初めまして。 レイラ・ヴァレリーと申します」
「貴女が…そう……」
上から下までジッと見られ、落ち着かない。それに笑ってるけど目が笑ってなくて怖い。震えそうになる体を両手で抱きしめたかったけど、きっとそれは無礼な行為になってしまう。
「レイラ」
知っている声になんだかホッとした。
「っと__父上、王妃陛下。 これは失礼いたしました。 レイラと一曲踊りたいので、彼女をお借りしても宜しいですか?」
アレクサンダー殿下は私の隣に立つと、私の腰に手を当て引き寄せた。とても近くてドキドキする。けどなんの断りもなく触れられても、気持ち悪さや嫌な気持ちは少しもなかった。それどころか安心してしまった。
国王陛下と王妃陛下に向き合うアレクサンダー殿下の表情は少し冷たさを感じた。
「レイラ嬢、ヴァレリー前侯爵にたまには顔を見せる様伝えてくれ」
「は、はい」
そう言うと国王陛下は王妃陛下と行ってしまった。
「大丈夫か?」
「え__?」
先程の冷たい表情からは想像できないくらい、柔らかな声色だった。
「顔色が悪い様に見えた。 何か言われたか?」
「あ、いいえ! 国王陛下からはビルがここでの生活に困っていることがないか聞かれただけです」
「王妃からは?」
「王妃陛下とは特に何も……ご挨拶させて頂いただけです」
そう…特に何か話したわけじゃない。ただ絡みつく様な視線に私が落ち着かなかっただけ。
ギュッと握った手を包む様にもう片方の手で握った。
「よし、踊るぞ」
「え? 本当に踊るんですか!?」
「当たり前だ」
「あ、あの! その前にビルにケーキを持って行ってもいいですか?」
「それなら問題ない。 ロレンソ、代わりに頼む」
「畏まりました」
_ビクッ!
まさか側にいると思ってなくて、驚いた。
ロレンソ様に「すみません」と言い終わるか終わらないかくらいで、アレクサンダー殿下に手を引かれホールに連れて行かれた。
踊り始め、ステップを間違えないか、アレクサンダー殿下の足を踏んでしまわないか内心ヒヤヒヤしていると、今夜のパーティーに出席しているアロイス兄様と目が合った。
きっと誤解してる……後で違うと説明しないと……。
「どうした」
「あ、いえ……何でもありません」
「兄が貴方との関係を誤解している様なので、踊るのをやめたいんですけど」なんて言えるわけない。
アレクサンダー殿下の整えられた髪の毛に目がいった。
「アレクサンダー様の綺麗なシルバーヘアは国王陛下譲りなんですね」
私の言葉に少し驚いた顔をするアレクサンダー殿下。その反応に私も驚いた。
「君には本当に驚かされる」
「それはどういう意味ですか?」
「さぁ? どういう意味だろうな」
これ以上聞いても教えてくれ無さそうな感じだ。
「レイラ、王宮では誰にも心を許すな。 ここでは皆が心の内を語らない。 腹の探り合いが好きな奴らばかりだ。 やましい気持ちでレイラに近付こうとする者も少なくないだろう。 決して利用されるな」
「……アレクサンダー様もですか?」
「君を利用したいなどとは思っていない。 だが信用しろとは言わない」
今までアレクサンダー殿下の様な人と接したことがないからか、この人が本当はどういう人なのかまだ分からなかった。でも悪い人ではないんだと思う。芯の通った人の様に思える。
「分かりました。 信用はいたしません。 でも信頼はいたします」
「…………」
私の言葉を聞いたアレクサンダー殿下は何も答えなかった。でもそっと上げられた口角、あたたかな眼差しは美しく、恥ずかしくなってしまった私は逸らすように視線を下げた。
顔が熱い。
この火照りはダンスのせいなのか、恥ずかしさからなのか、それともほかの何かなのか……いくら考えても答えは出なかった。