精霊たちのメサイア
28.本当に良い人
28.本当に良い人
あれから数日経つけど、相変わらずウーゴさんはビルの留学に猛反対している。レジスさんは二人の間に割って入る様な事はしない。ウーゴさんが猛反対したところで、ビルのお父様…つまりは獣王国の国王陛下は留学を許して下さってるから、留学は決まった様なものなんだけど。
あ……。
ビルの部屋から物凄く不機嫌そうな顔をしたウーゴさんが出てきた。すれ違いざまに軽く頭を下げるも、ウーゴさんは気付きもせず何処かに行ってしまった。
ビルの部屋の扉をノックして入ると、疲れた顔をしてソファーに項垂れるビルがいた。
「説得できなかったみたいだね」
「あぁ……」
「ウーゴさんはやっぱりビルの身が心配って事だよね?」
「…………」
こんなに眉間に皺を寄せているビルは珍しい。
「ウーゴから一旦母国に戻って、直接父と話したほうが良いって言われた」
それはまぁ……そうだよね。誘拐されて保護してくれてるこの国にそのまま留学よりは、一度家族に会う方がいいんだとは思う。ご両親も心配していただろうし。
ウーゴさんの言っていることも分かる。
「ビルのご両親もきっとビルに会いたいって思ってるよ。 でもこのまま留学を了承してくれたって事は、ビルの置かれてる状況も理解してくれてるって事だよね?」
「うん。 父も母もお前が無事ならそれでいいって……自分の身の安全だけを考えろって言ってくれてる」
「いいご両親だね」
そう言うと、やっといつもの優しいビルの顔になった。
その後も中々話し合いは纏まらず、一旦ビルが獣王国へ帰る事になった。私はビルに「気を付けてね」と挨拶をして見送った。国境近くまではアレクサンダー殿下が護衛をつけてくれる事になっている。
「大丈夫。 直ぐに会えるわよ」
「そう、ですよね」
ビルが帰ると決めて私も領地に戻る筈だったけど、ジュリア様がせっかくだからもう少し滞在してゆっくり過ごしましょうと提案してくれた。寂しいと思う私の気持ちを察して下さったんだろう。
夕食後のお茶を一緒に飲みながら、私は今朝の別れを思い出す。精霊たちが落ち着かない様子だった。嫌な予感がする。
ジュリア様の部屋を後にして、サラと部屋に戻っていると、前から知っている顔が歩いてきた。立ち止まり挨拶をすると、そんなに畏まらなくていいと言われた。ニコラース殿下はやっぱり物腰柔らかくてあたたかい雰囲気の方。精霊たちもそんなニコラース殿下が好きな様で、沢山周りを飛んでいる。
「変な事を聞く様だけど、レイラ嬢は王都に来ると良く教会本部を訪れていると聞いたんだけど本当?」
まさかそんな事を聞かれると思ってなくて一瞬驚いた。
「あ、え、は、はい。 王都にいる時にはよくお祈りに行かせていただいております」
なんでそんな事を?
「ローゼンハイム聖下にお会いする事はあるのかな?」
余計頭の中が混乱する。これは本当の事を言うべきなんだろうか?
返答に困っていると、ニコラース殿下は申し訳なさそうに微笑んだ。
「いや、いい。 今のは忘れてくれ。 もしお会いする機会があれば伝えてもらえないだろうか。 神々に感謝を、そして彷徨える魂に祝福を、と……」
「は、はい。 分かりました。 もしお会いする機会があればお伝えします」
「ありがとう。 引き止めて悪かったね。 では良い夢を」
こんなに良い人が、あんなに性格の悪い聖女様の婚約者なんて……いや、良い人だからあの聖女様の相手が務まるのだろうか?とにかく信じられない気持ちでいっぱいだった。
部屋に戻ってからは一気に疲れが出たのか、睡魔に襲われるのはあっという間だった。
あれから数日経つけど、相変わらずウーゴさんはビルの留学に猛反対している。レジスさんは二人の間に割って入る様な事はしない。ウーゴさんが猛反対したところで、ビルのお父様…つまりは獣王国の国王陛下は留学を許して下さってるから、留学は決まった様なものなんだけど。
あ……。
ビルの部屋から物凄く不機嫌そうな顔をしたウーゴさんが出てきた。すれ違いざまに軽く頭を下げるも、ウーゴさんは気付きもせず何処かに行ってしまった。
ビルの部屋の扉をノックして入ると、疲れた顔をしてソファーに項垂れるビルがいた。
「説得できなかったみたいだね」
「あぁ……」
「ウーゴさんはやっぱりビルの身が心配って事だよね?」
「…………」
こんなに眉間に皺を寄せているビルは珍しい。
「ウーゴから一旦母国に戻って、直接父と話したほうが良いって言われた」
それはまぁ……そうだよね。誘拐されて保護してくれてるこの国にそのまま留学よりは、一度家族に会う方がいいんだとは思う。ご両親も心配していただろうし。
ウーゴさんの言っていることも分かる。
「ビルのご両親もきっとビルに会いたいって思ってるよ。 でもこのまま留学を了承してくれたって事は、ビルの置かれてる状況も理解してくれてるって事だよね?」
「うん。 父も母もお前が無事ならそれでいいって……自分の身の安全だけを考えろって言ってくれてる」
「いいご両親だね」
そう言うと、やっといつもの優しいビルの顔になった。
その後も中々話し合いは纏まらず、一旦ビルが獣王国へ帰る事になった。私はビルに「気を付けてね」と挨拶をして見送った。国境近くまではアレクサンダー殿下が護衛をつけてくれる事になっている。
「大丈夫。 直ぐに会えるわよ」
「そう、ですよね」
ビルが帰ると決めて私も領地に戻る筈だったけど、ジュリア様がせっかくだからもう少し滞在してゆっくり過ごしましょうと提案してくれた。寂しいと思う私の気持ちを察して下さったんだろう。
夕食後のお茶を一緒に飲みながら、私は今朝の別れを思い出す。精霊たちが落ち着かない様子だった。嫌な予感がする。
ジュリア様の部屋を後にして、サラと部屋に戻っていると、前から知っている顔が歩いてきた。立ち止まり挨拶をすると、そんなに畏まらなくていいと言われた。ニコラース殿下はやっぱり物腰柔らかくてあたたかい雰囲気の方。精霊たちもそんなニコラース殿下が好きな様で、沢山周りを飛んでいる。
「変な事を聞く様だけど、レイラ嬢は王都に来ると良く教会本部を訪れていると聞いたんだけど本当?」
まさかそんな事を聞かれると思ってなくて一瞬驚いた。
「あ、え、は、はい。 王都にいる時にはよくお祈りに行かせていただいております」
なんでそんな事を?
「ローゼンハイム聖下にお会いする事はあるのかな?」
余計頭の中が混乱する。これは本当の事を言うべきなんだろうか?
返答に困っていると、ニコラース殿下は申し訳なさそうに微笑んだ。
「いや、いい。 今のは忘れてくれ。 もしお会いする機会があれば伝えてもらえないだろうか。 神々に感謝を、そして彷徨える魂に祝福を、と……」
「は、はい。 分かりました。 もしお会いする機会があればお伝えします」
「ありがとう。 引き止めて悪かったね。 では良い夢を」
こんなに良い人が、あんなに性格の悪い聖女様の婚約者なんて……いや、良い人だからあの聖女様の相手が務まるのだろうか?とにかく信じられない気持ちでいっぱいだった。
部屋に戻ってからは一気に疲れが出たのか、睡魔に襲われるのはあっという間だった。