精霊たちのメサイア

5.歳の離れた兄妹

5.歳の離れた兄妹。


お家に帰り着くと、なんだか少し雰囲気が違う気がした。

荷物は部屋に運んでもらい、部屋につくなりサラがつばの広い帽子を取ってくれた。ドレッサーの前に座らされ、丁寧に髪の毛も整えてくれる。この至れり尽くせりな環境に恐縮してしまう。

_コンコンコン。


「なんでしょう」


私の代わりにサラが答える。


「ジェルマンですが、宜しいでしょうか」


頷くと、サラが「どうぞ」と言ってくれた。

ドアを開け入ってきた執事長のジェルマンは、今日も完璧なまでの身だしなみだ。いくら動こうとも毛の一本すらこぼれ落ちないであろう白髪は顔にかからない様きっちり整えられ、シワのない燕尾服、ピカピカな革靴、鉄筋でも入ってるんじゃないかと言わんばかりの姿勢の良さ。


「戻られて直ぐでお疲れでしょうが、旦那様がお呼びでございます」


(お父様が?)


軽く身嗜みを整えて私はジェルマンについて行った。ついた部屋はまだ一度も来たことがない部屋だった。


_コンコンコン。


「旦那様、レイラお嬢様をお連れいたしました」

「あぁ、入ってくれ」


いつものお父様の声よりも、硬く感じた。

ジェルマンが開けてくれたドアから部屋の中に入ると、お父様とお母様のほかに知らない男性が3人ソファーに座っていた。「どちら様ですか?」なんて聞かなくてもすぐに分かった。


「レイラ、こっちにおいで」


お父様に呼ばれて、まず3人に軽く頭を下げて少し早歩きになりながらお父様のところへ向かった。お父様とお母様の間に座らされた。

お世辞にもいい雰囲気とは言えないこの状況にどんな顔をすればいいのか分からなかった。


「紹介しよう。 私たちの息子で長男のアロイスだ」


少しクセのある焦茶の髪の毛に口髭。私からしてみればお父さんくらいの年齢だろうか。それにしては世のお父さんのイメージとはかけ離れた体型をしている。


「こっちが次男のエタンだ」


赤毛の肩近くまである髪の毛を後ろに流し、眼鏡をかけている男性。知的かつ少し冷たさを感じる雰囲気。


「そして三男のグレゴワールだ」


薄茶色の髪の毛を少し崩した感じで後ろに流してる男性。一番歳が近いからだろうか。仲良くなれるとしたらこの人かもしれないと思った。近いといっても結構歳は離れてるだろうけど。


「お前たちの妹になった、レイラだ。 仲良くしてやってほしい」


頭を下げると、大きなため息が聞こえてきた。


「本当に養女をとったのか……」

「いったい何を考えてるんですか」

「僕は下に弟か妹が欲しかったからね、嬉しいよ」


歓迎してくれてるのはどうやらグレゴワール兄様だけの様だ。そりゃ突然家族が増えたよ!なんて言われて簡単に受け入れるわけないか。簡単に受け入れられるとも思ってない。他の人にどう思われようと関係ない。お父様とお母様に迷惑がかからない様にする。それが私の気持ちだから。


「アロイス兄様、エタン兄様、そんな怖い顔をしてたらレイラが怖がるだろ。 2人のことは気にしなくていいよ、僕は歓迎するよ。 その証に妹のレイラにと思ってこれを買ってきたんだ」

「誰も歓迎しないとは言ってないだろ!?」

「そうですよ! それにグレゴだけではないんですからね!」


凄い勢いでテーブルの上に色とりどりの箱が並んだ。ピンクや花柄、レースや真っ赤なリボン。


(これはいったい……)


どうしていいか分からず、お父様とお母様の顔を交互に見た。するとお母様は「うふふ」と楽しそうに声を漏らした。


「優しい兄たちで安心したわ。 レイラ、今すぐにとは無理でしょうけど、3人の兄たちとも仲良くしてほしいの」


ポケットから買ったばかりのペンを出し、覚えたての言葉を空中に綴った。


(ヨロシク、おねがい……しま、す)


少し時間がかかったし、字も不安定で不細工だけど、みんなには伝わった様で、お母様とお父様から抱きしめられた。

お兄様たちからの贈り物を開けると、クッキーやチョコレートや飴だった。ペンで「ありがとうございます」と書くと、グレゴワール兄様に勢いよく抱きしめられた。


「可愛い妹ができてほんっとーに!嬉しいよ!」


兄妹といっても会ったばかりの男の人に抱きしめられるのは心臓に悪い。離して!と背中をパタパタ叩くも何を勘違いしたのか、更にぎゅっと抱きしめられた。


「お前の愛情表現の激しさは幾つになっても変わらないな」


そう言ってグレゴワール兄様を引き離してくれたのはアロイス兄様だった。呆れた顔をしながらも、その顔はとても優しかった。




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