精霊たちのメサイア

48.穢れをみつけるには

次の日、朝早くに教会を訪れた。もちろんリタを連れて。

いつも通りお祈りを済ませると、フェニーニ枢機卿が迎えに来てくれた。


「今日は侍女のリタも一緒にいいですか?」

「はい、ローゼンハイム聖下からお二人をお連れするようにと申しつかっております」


どうやらローゼンハイム聖下には全てお見通しのようだ。


「緊張してる?」

「少し緊張してます。 ですが、神力で満たされたこの場所はとても心が落ち着きます」

「ここはそんなに神力で満たされてるの?」

「はい。 こんなに強い神力で満たされている場所はローゼンハイム聖下がいらっしゃるこの場所だけです」


そうなんだ。

私は神の身使いではないから感じないのかもしれない。リズも私のイヤーカフの神力に気付いてたから、聖女は神の力に敏感なのかもしれない。


「いらっしゃい」


いつもの場所に着くと、聖下はひとりお茶を飲みながら待っていてくれた。


「朝早くに訪問してしまってすみません。 一緒にいるのは__」

「マリアンネ、ですね」


リタは目に涙を浮かべ、淑女の礼をとった。


「ローゼンハイム聖下、ご無沙汰しております。 またお会いできた事、心より嬉しく思います」

「私もです。 さぁ、かけてください」


椅子に座ると、ローゼンハイム聖下が私たちにもお茶を淹れてくれた。

昨日話した内容をそのままローゼンハイム聖下に話した。聖下は少し考える表情を見せ、口を開いた。


「目を見た瞬間意識がなくなったのですね?」

「はい、そうです」

「怪我をさせられたりなどはありませんでしたか?」

「打ち身などのアザはありましたが、真新しい怪我はありませんでした」

「それでしたら魔道具の可能性が高いですね」

「どうしてですか?」


思った疑問を口にした。


「魔術を使用する殆どの場合双方の血が必要となります。 ですが今回は目を見ただけで術が発動したということは魔道具を使用したのでしょう」


その言葉を聞いて希望が大きくなった。


「リタ! 魔道具を見つけて壊しましょう! 隠すとしたらきっとお家よね!?」

「そうですね、恐らく身近な場所だとはおもうのですが……どうやって見つけましょう……」

「禁忌の魔道具は穢れがついています。 ですから神力を持っているものであれば見つける事は容易いでしょう。 ですが、できればマリアンネは彼女に姿を見られない方がいいかと思います。 本来の自分の身体を殺そうとするでしょう」

「そんな!!」

「何故彼女は私の身体を乗っ取った後、私を殺さなかったのでしょう?」

「人の命を奪うのはそんなに簡単な事ではありません。 深紅の聖女は第二皇子殿下の婚約者です。 自分が孤児院や平民街を歩かなければ元の身体と再会する事はないだろうと思ったのかもしれません。 ですが運命はその悪事を許さなかったのです」

「そうですね。 きっとベアトリス様が私をレイラお嬢様の元へ導いて下さったのでしょう」


リタを見つからないようにするなら魔道具探しは他の人にお願いしないといけない。リズ?いや、でも…そんなに仲良くなさそうだったから、リズにお家に訪ねていってもらうっていうのは無理か。

そういえば……


「ニコラース殿下も神力が使えるんですよね?」

「そうですね。 ですが今は指輪の力で封印しているので、穢れを探せるほどの神力はないでしょう」

「指輪を外すことはできないんですか?」

「外してまたつけることは可能です」

「それなら__」

「ニコラース殿下にそのようなことはさせられません」


リタはそういうとニコッと微笑んだ。


「もしも、万が一あの強い神力が戻ったとバレてしまったらあの方は再び王位継承の争いに巻き込まれてしまいます。 王妃様はまだ諦めておられないようですが、ニコラース殿下の想いは違います。 あの方が望まない場所に戻ってしまうことは避けたいのです。 たとえ元の身体に戻れずとも、あの方が苦しむ事になるくらいなら今のままでかまいません」

「ねぇ、リタ……それはニコラース殿下も同じじゃないかな?」

「え……?」

「ニコラース殿下は今のマリアンネが偽物かもしれないって疑っていて、その事をどうにか調べようと危険を犯して私に聖下に伝言を頼んだんだよ。 リタがニコラース殿下を第一に考えるように、ニコラース殿下もリタのことを1番に考えてる。 私もついひとりで考え込んじゃって周りに怒られるの。 だからリタの気持ちもよく分かる。 だけど、どうするのかはニコラース殿下にも話を聞いた方がいいと思う」


リタは何か言いたそうに口を開いたが、すぐに閉じてしまった。そのまま俯いて口を閉ざしてしまった。

私も一人で心の整理をしようとか、解決しようとか思ってしまうからリタの考えてることはなんとなく分かる。
ニコラース殿下に負担をかけるくらいなら、命を狙われてもいいから私の侍女として実家に行こうと思っているかもしれない。実際リタが来た方が家の中のことを熟知しているから、探すのも早いだろう。でもそれはニコラース殿下が許さないだろう。

できればニコラース殿下に魔道具探しをお願いしたいと思ってしまう。王位継承争いに巻き込まれる大変な気持ちよりも、リタが命を狙われることの方が怖いと思ってしまうからかもしれない。


「あの頃のニコラース殿下は王位継承権を持つにはただただお優しく、そして弱かったです。 ですが、今であれば心を強く持ち、王妃様の思惑に流される事はないかもしれません」

「ですが……」

「争いごとに巻き込まれないように静かに王宮の中で過ごしていた方が、愛する女性のために行動を起こしたのです。 愛は人を強くするものです。 それにまだ力がバレるかどうかもわかりません。 まだ何も起きていないのです」


ローゼンハイム聖下の言葉を聞いて、リタは唇を噛み締めていた。涙を流してしまわないように堪えているその姿に私の方が泣いてしまいそうだった。




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