精霊たちのメサイア
49.嬉しい再会
リタと教会から戻った日、王宮から手紙が届いていた。その手紙はアレクサンダー様からで、手紙を読んで嬉しさのあまり急いでお返事を書いた。手紙にはいつ来てもらっても構わないと書かれていたので、失礼かなとは思いつつも次の日に伺いますと書いた手紙を大急ぎでアレクサンダー様に届けてもらった。
禁忌の魔道具を探すのはリタがするか、ニコラース殿下がするのかはニコラース殿下にもお話しして決める事にした。リタは完全には納得していないようだったけど……。
それにしてもどうするかなぁ……どうやってニコラース殿下と連絡を取り合おう。確かにメサイアと王室の人が親交を持つことは問題ないんだろうけど、頻繁に会ったり連絡取り合ったりというのは難しそうだ。しかもニコラース殿下には婚約者がいる。本当の婚約者はリタだから、彼女に誤解されようと何とも思わないけど、事情を知らない人たちからはいらぬ噂を立てられるだろう。そうなればヴァレリー侯爵家に迷惑がかかってしまう。
ドアの横に立つ警備の方にご挨拶をすると、部屋の中へと通してくれた。
「レイラ!!!」
「ビル!!!」
椅子から立ち上がったビルは走ってくるとその勢いのまま私を抱きしめた。私も軽く抱きしめ返し、直ぐに身体を離した。
「失礼いたしました。 ビルヒリオ王太子殿下、またお会いできて嬉しいです」
ビルは王位継承する者として王太子となったとアレクサンダー様のお手紙に書かれていた。今までも気軽に接していい身分の方ではなかったけど、それ以上に気軽に接してはいけない人になってしまった。
「やめてよ! レイラはメサイアなんだから、僕に丁寧な態度を取る必要なんてないんだよ。 メサイアは王と同等、もしくはそれ以上の存在なんだから、寧ろ僕の方が丁寧に接しなければいけないんだ! だから僕がレイラ様ってお呼びした方がいいかな?」
茶目っ気たっぷりな顔で言われて思わず笑ってしまった。
「これからもビルって呼ぶわ。 だからレイラ様なんて言わないで。 レジスさんもまたお会いできて嬉しいです」
「レイラ様、ご無沙汰しております。 私もお会いできて嬉しいです。 暫くの間ビルヒリオ王太子殿下と共にこの国に滞在する事となりましたので、改めてよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
ビルは漸く留学の準備が整い、アガルタ王国に戻ってきた。
一旦獣王国に戻って色々あっただろうに、ビルもレジスさんも疲れた顔ひとつしない。獣王国ではどんな事があったのか聞きたいけど、それはまた今度にしよう。
「アレクサンダー様、お便りをくださってありがとうございます」
「当然の事だ。 どうぞ掛けてくれ」
アレクサンダー様の直ぐ側に仕えているロレンソ様とルシオ様にもご挨拶をして椅子に腰掛けた。
ビルは今後のことを楽しそうに話しながら教えてくれた。
3年間この国でたくさんのことを学んでいくらしい。学園には王宮から通うらしく、寮には入らないとのことで安心した。いくら護衛が付いていたとしても、寮生活はきっと危ない。ビルは何も言わないけど、まだ命を狙われているんじゃないかと思う。それはビルに限らず、この国の王族…王位継承権を持つ人たちも同じだろう。
「俺の顔に何かついているか?」
「あ、いえ! な、何も!」
ついアレクサンダー様の顔を見てしまっていたようで、慌ててしまった。
「そうだ! ビル! 紹介したい子がいるの!」
アレクサンダー様の甘くとろけてしまいそうな笑みから逃げる様に話題を変えた。
「紹介したい子?」
「うふふ、ラウ!」
名前を呼ぶと、ポンっと目の前に現れたラウを抱き止めた。
「この子はラウ。 私と契約してる精霊よ。 ラウ、こちらはビルヒリオ王太子殿下。 ご挨拶できる?」
ラウは私の腕の中でソワソワしながら、そしておずおずと手を伸ばした。
「…ラウ。 よろ、しく」
ビルはとびきりの笑顔でラウの手を優しく掴んだ。
「僕の事はビルって呼んでくれ! よろしく、ラウ」
照れた顔してパッと手をひいたラウは私の胸に顔を埋めた。
あやす様に背中をさすり「頑張ったね」と言うと、ラウの小さな手がぎゅっと動いた。耳まで真っ赤。可愛くてつい頬が緩んでしまう。
「やっと契約したのか」
フレイムの言葉に笑顔で返した。
そう、つい先日ラウと契約を結んだ。ラウもそれを望んでくれていた様で、私たちの契約はすんなり行うことができた。
フレイムは笑いながらラウの頭をツンツンしている。ラウは頑なに顔を上げようとしない。まだ精霊にも人間にも抵抗のあるラウ。早く私以外の人にも慣れてくれたら嬉しいな。
「Rock-a-bye baby, on the tree top〜……」
子守唄を口ずさむとラウの身体から力が抜けていった。そのまま背中をトントンしながら静かに歌を口ずさむ。周りにいる精霊たちも眠くなってきたのか、クッションの上や観葉植物の葉っぱの上、いろんなところで欠伸をしては寝始めた。
私の腕の中からもスー、スー、と小さな寝息が聞こえてきた。
ハッとなり周りを見るとみんなの視線が集中していた。
やってしまった……家では当たり前のようにしていたからついやってしまった。恥ずかしくて顔がどんどん熱くなる。
「レイラ凄い!」
キラキラと瞳を輝かせるビルに小声でそう言われて少し照れてしまった。
「普通に話しをしても大丈夫よ。 ラウは一度寝るとそう簡単には起きないの」
「そっか、良かった」
ビルは胸に手を当てホッとした顔をした。
「歴代メサイアの中で1、2を争う力の強さですね」
「メサイアの力に強いとか弱いとかあるんですか?」
ロレンソ様の言葉にそう質問すると、ロレンソ様は簡単に説明してくれた。
メサイアにも序列があるらしく、それは力の強さで決まるのだとか。一度に多くの精霊を癒せなかったり、症状がひどく進行している精霊を癒す事ができなかったりすると、そんなに強い力がないメサイアだそうだ。私のように少しの時間でこんなにたくさんの精霊を癒せるのは力が強いかららしい。
「レイラの歌は調和が必要ない精霊の力も増幅させるからな!」
「え!? そうなの!?」
トネールの言葉に驚いた。初耳だ。
「あら、精霊王からは何も聞いていないの?」
頷くと、フレイムは「まぁ、精霊王らしい」と笑っていた。
「レイラ嬢の歌声をちゃんと聴いたのは初めてだが、本当に美しいな」
アレクサンダー様の言葉に一気に顔が熱くなる。
「あり、がとうございます」
顔を覆って隠したいが、ラウを抱っこしてるせいで両手が塞がっていて無理だった。
いろんな人に歌を褒めてもらってもちろん嬉しいしちょっぴり恥ずかしいけど、ここまで照れ臭くなる事はないのに……顔が火照ってしょうがない。
「温室から聞こえてくるのを聴くくらいだもんな」
「いつもは温室で歌ってるの?」
ルシオ様の言葉に反応したのはビルだった。
「うん、いつもは王宮の温室で歌ってるの。 精霊たちが好きなお菓子を広げて、歌を歌って一緒に歌ってはお菓子を食べて…のんびり過ごしてるよ。 今度ビルも一緒にどう?」
「いいの!?」
「勿論だよ。 精霊たちも甘いお菓子が好きだから、直ぐに仲良くなれると思う」
「お邪魔する時は僕も何かお菓子を持っていくよ!」
「精霊たちがとっても喜ぶわ! ありがとう」
ここ最近は色々と考える事が多くて、今日ビルと会えた事は自分が思っている以上に息抜きになった。ビルには勿論の事、アレクサンダー様にも感謝だ。
禁忌の魔道具を探すのはリタがするか、ニコラース殿下がするのかはニコラース殿下にもお話しして決める事にした。リタは完全には納得していないようだったけど……。
それにしてもどうするかなぁ……どうやってニコラース殿下と連絡を取り合おう。確かにメサイアと王室の人が親交を持つことは問題ないんだろうけど、頻繁に会ったり連絡取り合ったりというのは難しそうだ。しかもニコラース殿下には婚約者がいる。本当の婚約者はリタだから、彼女に誤解されようと何とも思わないけど、事情を知らない人たちからはいらぬ噂を立てられるだろう。そうなればヴァレリー侯爵家に迷惑がかかってしまう。
ドアの横に立つ警備の方にご挨拶をすると、部屋の中へと通してくれた。
「レイラ!!!」
「ビル!!!」
椅子から立ち上がったビルは走ってくるとその勢いのまま私を抱きしめた。私も軽く抱きしめ返し、直ぐに身体を離した。
「失礼いたしました。 ビルヒリオ王太子殿下、またお会いできて嬉しいです」
ビルは王位継承する者として王太子となったとアレクサンダー様のお手紙に書かれていた。今までも気軽に接していい身分の方ではなかったけど、それ以上に気軽に接してはいけない人になってしまった。
「やめてよ! レイラはメサイアなんだから、僕に丁寧な態度を取る必要なんてないんだよ。 メサイアは王と同等、もしくはそれ以上の存在なんだから、寧ろ僕の方が丁寧に接しなければいけないんだ! だから僕がレイラ様ってお呼びした方がいいかな?」
茶目っ気たっぷりな顔で言われて思わず笑ってしまった。
「これからもビルって呼ぶわ。 だからレイラ様なんて言わないで。 レジスさんもまたお会いできて嬉しいです」
「レイラ様、ご無沙汰しております。 私もお会いできて嬉しいです。 暫くの間ビルヒリオ王太子殿下と共にこの国に滞在する事となりましたので、改めてよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
ビルは漸く留学の準備が整い、アガルタ王国に戻ってきた。
一旦獣王国に戻って色々あっただろうに、ビルもレジスさんも疲れた顔ひとつしない。獣王国ではどんな事があったのか聞きたいけど、それはまた今度にしよう。
「アレクサンダー様、お便りをくださってありがとうございます」
「当然の事だ。 どうぞ掛けてくれ」
アレクサンダー様の直ぐ側に仕えているロレンソ様とルシオ様にもご挨拶をして椅子に腰掛けた。
ビルは今後のことを楽しそうに話しながら教えてくれた。
3年間この国でたくさんのことを学んでいくらしい。学園には王宮から通うらしく、寮には入らないとのことで安心した。いくら護衛が付いていたとしても、寮生活はきっと危ない。ビルは何も言わないけど、まだ命を狙われているんじゃないかと思う。それはビルに限らず、この国の王族…王位継承権を持つ人たちも同じだろう。
「俺の顔に何かついているか?」
「あ、いえ! な、何も!」
ついアレクサンダー様の顔を見てしまっていたようで、慌ててしまった。
「そうだ! ビル! 紹介したい子がいるの!」
アレクサンダー様の甘くとろけてしまいそうな笑みから逃げる様に話題を変えた。
「紹介したい子?」
「うふふ、ラウ!」
名前を呼ぶと、ポンっと目の前に現れたラウを抱き止めた。
「この子はラウ。 私と契約してる精霊よ。 ラウ、こちらはビルヒリオ王太子殿下。 ご挨拶できる?」
ラウは私の腕の中でソワソワしながら、そしておずおずと手を伸ばした。
「…ラウ。 よろ、しく」
ビルはとびきりの笑顔でラウの手を優しく掴んだ。
「僕の事はビルって呼んでくれ! よろしく、ラウ」
照れた顔してパッと手をひいたラウは私の胸に顔を埋めた。
あやす様に背中をさすり「頑張ったね」と言うと、ラウの小さな手がぎゅっと動いた。耳まで真っ赤。可愛くてつい頬が緩んでしまう。
「やっと契約したのか」
フレイムの言葉に笑顔で返した。
そう、つい先日ラウと契約を結んだ。ラウもそれを望んでくれていた様で、私たちの契約はすんなり行うことができた。
フレイムは笑いながらラウの頭をツンツンしている。ラウは頑なに顔を上げようとしない。まだ精霊にも人間にも抵抗のあるラウ。早く私以外の人にも慣れてくれたら嬉しいな。
「Rock-a-bye baby, on the tree top〜……」
子守唄を口ずさむとラウの身体から力が抜けていった。そのまま背中をトントンしながら静かに歌を口ずさむ。周りにいる精霊たちも眠くなってきたのか、クッションの上や観葉植物の葉っぱの上、いろんなところで欠伸をしては寝始めた。
私の腕の中からもスー、スー、と小さな寝息が聞こえてきた。
ハッとなり周りを見るとみんなの視線が集中していた。
やってしまった……家では当たり前のようにしていたからついやってしまった。恥ずかしくて顔がどんどん熱くなる。
「レイラ凄い!」
キラキラと瞳を輝かせるビルに小声でそう言われて少し照れてしまった。
「普通に話しをしても大丈夫よ。 ラウは一度寝るとそう簡単には起きないの」
「そっか、良かった」
ビルは胸に手を当てホッとした顔をした。
「歴代メサイアの中で1、2を争う力の強さですね」
「メサイアの力に強いとか弱いとかあるんですか?」
ロレンソ様の言葉にそう質問すると、ロレンソ様は簡単に説明してくれた。
メサイアにも序列があるらしく、それは力の強さで決まるのだとか。一度に多くの精霊を癒せなかったり、症状がひどく進行している精霊を癒す事ができなかったりすると、そんなに強い力がないメサイアだそうだ。私のように少しの時間でこんなにたくさんの精霊を癒せるのは力が強いかららしい。
「レイラの歌は調和が必要ない精霊の力も増幅させるからな!」
「え!? そうなの!?」
トネールの言葉に驚いた。初耳だ。
「あら、精霊王からは何も聞いていないの?」
頷くと、フレイムは「まぁ、精霊王らしい」と笑っていた。
「レイラ嬢の歌声をちゃんと聴いたのは初めてだが、本当に美しいな」
アレクサンダー様の言葉に一気に顔が熱くなる。
「あり、がとうございます」
顔を覆って隠したいが、ラウを抱っこしてるせいで両手が塞がっていて無理だった。
いろんな人に歌を褒めてもらってもちろん嬉しいしちょっぴり恥ずかしいけど、ここまで照れ臭くなる事はないのに……顔が火照ってしょうがない。
「温室から聞こえてくるのを聴くくらいだもんな」
「いつもは温室で歌ってるの?」
ルシオ様の言葉に反応したのはビルだった。
「うん、いつもは王宮の温室で歌ってるの。 精霊たちが好きなお菓子を広げて、歌を歌って一緒に歌ってはお菓子を食べて…のんびり過ごしてるよ。 今度ビルも一緒にどう?」
「いいの!?」
「勿論だよ。 精霊たちも甘いお菓子が好きだから、直ぐに仲良くなれると思う」
「お邪魔する時は僕も何かお菓子を持っていくよ!」
「精霊たちがとっても喜ぶわ! ありがとう」
ここ最近は色々と考える事が多くて、今日ビルと会えた事は自分が思っている以上に息抜きになった。ビルには勿論の事、アレクサンダー様にも感謝だ。