精霊たちのメサイア
51.魔塔
今までは王宮に通うのは週に2,3回程度だったけど、今は毎日通っている。何故なら……
「レイラ嬢、精霊たちの為にシェフに作ってもらったんだけど、食べてくれるだろうか?」
「いつもありがとうございます。 聖霊たちが喜びます」
ニコラース殿下は精霊たちの為という名目で温室に顔を出してくれる。
そしてお決まりのように私が手を出すと、流れるような美しい動きで私の手を取り触れるか触れないかくらいの距離で手の甲に唇を落とす。初めてされた時は慣れなくてびっくりしてぎこちなかったけど、今ではだいぶ慣れた。
そしていつものように私の掌には折り畳まれた紙の感触がした。周りにわからないように受け取り、そっとポケットに入れた。
お菓子を嬉しそうに食べる精霊たちを少しの間にこやかに眺めて、ニコラース殿下は温室を出て行った。いつも長いはしない。私たちの間柄は王子殿下とメサイアでいなければいけない。周りに勘繰られないようにしなければいけない。
ハンカチを出すふりをして受け取ったメモをそっと見た。
“魔塔へ”
魔道具が絡んでいるからエタン兄様に話をしておいた方がいいんじゃないかと思い、ニコラース殿下に提案した返事だった。
読み終わると文字がスーッと消えていった。
この紙にも魔法がかけられていて、魔道具の一種らしい。陛下が内密に連絡をとるときに使ったりするらしい。それをこっそり取ってきたらしいから、ニコラース殿下もニコニコ優しい顔してやる時はやる人なんだなと変に感心してしまった。
「サラ! 帰る前にエタン兄様に会いに行ってもいい?」
「勿論です。 レイラお嬢様がお尋ねになったら喜ばれます」
魔塔へは行ったことがないので、護衛として付いてくれている王宮の騎士の方が連れて行ってくれた。
「こんにちは。 私レイラ・ヴァレリーと申します。 副師団長へ会いたいのですが、いらっしゃいますか?」
「メサイア様! しょ、少々お待ち下さい!!」
魔塔の入り口に立つ警備の方に声をかけるとすごく慌てられた。
「突然きちゃって迷惑だったかな?」
小声でサラに声をかけると後ろから小さく笑う声が聞こえた。振り返ると王宮の騎士様2人笑っていた。
私が首を傾げると彼らは咳払いをして理由を教えてくれた。
「本来メサイア様は王宮でも限られた方しかお会いできません。 特に魔道士とは関わりがありませんので、まさかここへレイラ様がいらっしゃるとは思っていなかったのでしょう。 それに、魔道士があの様に慌てる姿は中々見れませんよ」
まだおかしそうに笑ってる。
確か王宮騎士団と王宮魔道士団は仲があまり良くないのよね。騎士団は魔道士団の事を貧弱な人たちだと思っていて、魔道士団は騎士団の事を脳筋だと思ってるとか……それぞれ得意分野が違うんだからそんな事言わないで仲良くすればいいのに。
魔塔へ入る許可がおりたので入ろうとしたら、騎士達が止められてしまった。
「これより先に入れるのはメサイア様とお付きの侍女だけです」
「何を馬鹿な事を言っている。 我らはレイラ様をお守りする任を受けている。 王命にそむくのか!?」
「ここは魔導師団長の領域です。 誰の入場を許可し、誰の入場を拒否するのかは魔導師団長が決める事です。 あなた方がどれほど騒ごうと許可されていないものは一歩たりとも踏み入れることは叶いません」
魔道士の言う通り私とサラは最も簡単に魔塔の中に入れたと言うのに、騎士達は透明な壁でもあるかの様に一歩も中へ入って来られなかった。
王宮の敷地内なのにこんな事いいの!?でもきっと国王陛下も許可しているからこその事なんだろう。もしそうじゃなくて魔導師団長の独断と偏見でこんな事をしているのなら魔導師団長はかなりの問題児だろう……もしそうなら会うのが怖い。
「1時間経っても私が出てこなかったり連絡がなければ、騎士の魔塔への入場を許可していただけませんか?」
魔道士の方にそう提案すると、何やら耳に手を当てた後「その様にいたします」と返答をもらえた。騎士の皆さんはまだ納得いっていなかったけど、渋々見送ってくれた。