ロミオの嘘とジュリエットの涙
ジュリエットの涙
「あのね、透。私、透のことが大好きだよ」

 コップを持ったまま彼の真正面に立ち、まっすぐに伝える。

「俺もだよ」

 そっと頬に手を添えられ唇が重ねられる。いつもなら目をつむって受け入れるのに今の私の心音は乱れっぱなしだ。

 それは、この後自分を待ち受ける運命がわかっているからじゃない。わからないからなの。

「何度も夢見てきた。透と本当の兄妹じゃなかったらどんなに幸せだろうって」

 唇が離れ、私は問いかける。彼の目を見据えて。

「そうしたら、こんな道を選ばなくてすんだ。もっと堂々と自分の好きな人を口にできた。誰の目を気にせずに一緒に入られた。……透は?」

 いつもなら迷いなく『俺もだよ』って答えてくれた。けれど今、私の心の機微を悟ったのか、珍しく透は目を見張って言葉を迷っている。

「っ、俺は」

「お母さんにね」

 透の発言を遮って私は続ける。唇が震えて上手く声が出せない。

「っ、伝え、たの……私たちのこと。透が誰よりも好きで、結婚したいんだって」

 今度こそ透が動揺したのがはっきりとわかった。

 どうせ死ぬのなら、本当のことを言っておきたい。他人に言えなくても、私たちが起こした行動の理由を知っていてほしい。

 ショックを受けられると思った。罵られる覚悟もしていた。けれど――

「お母さんがね、『知ってたの?』って」

 いまだに信じられない。だから確かめるように透をうかがいながら喉の力を振り絞る。

「透と私は本当の兄妹じゃないって」

 母から聞かされた衝撃的事実。にわかに信じられるわけがない。だって、お父さんが本当のお父さんじゃなかったら、本当の父親って誰なの?

 透とお母さんは血が繋がっていない? そして私とも――?
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