ロミオの嘘とジュリエットの涙
「透だって人のこと言えないでしょ!」

 口を尖らせ答えるも、確実に動揺していた私は透のいつも通りのからかいで救われた。

「にしても箱入り娘の結が、大学進学で一人暮らしなんてどうなるんだか」

「大きなお世話。自分だって出ていくくせに」

 憎まれ口には本音も(こも)る。

「もうっ! いい年して兄妹喧嘩はやめなさい」

 母の一声に私は黙って自分の席に着き、ガトーショコラを選んで皿に置いた。チョコレートが好きな私のために透はわざとガトーショコラを残してくれたんだ。

 そんな彼の気遣いが嬉しいのに、素直に表せないのはこの関係のせいなのか。

「ほら」

「え?」

 突然、透がフォークを向けてくる。先端にはチーズケーキが刺さっていた。

「好きだろ?」

 余裕たっぷりに微笑まれドキッとする。チーズケーキは嫌いじゃないけれど大好物というわけでもない。

 でも――。

「うん……好き」

 少し迷った後、おとなしく口を開け、透に食べさせてもらう。こんな些細な行動に鼓動は速くなる一方だ。

 チーズケーキの程よい酸味と柔らかさが口の中に広がるが、正直美味しいかどうかよくわからない。

――バレていないよね?

 母をうかがうがまったく気にしている様子はない。当たり前か。母は私が口にした「好き」に隠された本当の気持ちを知るよしもない。

 喧嘩なんてとんでもない。

 私、三条(さんじょう)結は、本気で透を愛している。実の兄である彼を、幼い頃からずっと想い続けている。

 誰にも言えない秘密の恋。

 ――違う。

 誰にも言えないわけじゃない。私は正面に座る透をちらりと見た。

 一瞬だけ交わった視線は優しくて、それだけで胸が締めつけられる。透は私と同じ気持ちでいてくれる。妹である私を受け入れてくれた。

 彼なしの人生なんて考えられない。
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